ロシアは9月1日から、中央銀行デジタル通貨(CBDC)「デジタルルーブル」を本格導入する。通信大手やEC大手、主要銀行には受け入れ対応が義務付けられる。一方で、ビットコインなど暗号資産を商品・サービスの直接決済に使うことは引き続き認めない。
ブロックチェーンメディアのCryptoPolitanによると、狙いは国家管理のデジタル通貨の普及を進めるとともに、民間の暗号資産が決済手段として広がるのを抑えることにある。ロシアは暗号資産の投資や売買は認めているが、商品・サービスの対価を暗号資産で直接支払うことは禁止してきた。デジタルルーブルは、現金ルーブルと預金などの非現金ルーブルに続く「第3の国家通貨」と位置付けられる。
導入初日からは通信各社も対応する。ロシアの大手移動通信4社のうち、MTS、Rostelecom、MegaFonの3社は9月1日からデジタルルーブル決済を受け付ける。MTSは「MTS Pay」モジュールを通じて提供し、Rostelecomは大手銀行1行と技術プラットフォームの高度化を進めている。MegaFonは、デジタルルーブルを利用者が選べる追加の決済手段と位置付けた。
ECプラットフォームも同日から対応を始める。主要オンラインマーケットプレイスのWildberriesとOzonは、9月1日からデジタルルーブル決済に対応する。Ozonは段階的に対象を拡大する方針を示し、Wildberriesはロシア中央銀行の要件を順守していると説明した。
今回の開始時期は、法的義務化のスケジュールとも重なる。2025年7月に施行された法律に基づき、主要銀行と取引があり、年間売上高が1億2000万ルーブルを超えるサービス事業者と小売事業者は、2026年9月1日までにデジタルルーブル決済の受け入れを導入しなければならない。年間売上高が3000万ルーブルを超える企業は2027年9月まで、その他の企業は2028年9月までに対象に加わる。
銀行側にも開始時点から対応義務が課される。Sber、VTB、Alfa Bankを含むロシアのシステム上重要な12行は、すべてデジタルルーブルの取り扱いに対応しなければならない。
利用環境は既存の銀行アプリを軸に整備する。個人利用者は、既存の銀行アプリを通じて手数料無料でウォレットにアクセスできる。ロシア中央銀行は、銀行ごとの月間チャージ上限を30万ルーブルに設定する方針を進めている。
一方、ビットコインなど分散型トークンによる商品・サービスの直接決済は今後も認めない。ロシア中央銀行は6月の協議文書で、各国が通貨主権の保護を目的に独自のステーブルコインを検討していることに触れつつ、国内決済におけるステーブルコイン類似のデジタル金融資産の使用禁止を維持する方針を示した。
この姿勢は、他市場でステーブルコイン活用が広がる流れとは対照的だ。国際決済銀行(BIS)は6月の年次報告書で、ステーブルコインは貨幣としての性質が十分ではなく、途上国では「ステーブルコインによるドル化」を招く可能性があると警告した。ロシアは、中央銀行主導のデジタル通貨に軸足を置く姿勢を鮮明にしている。
もっとも、利用者の受容性はなお高くない。ロシアの世論調査機関VTsIOMが2025年6月に実施したオンライン調査では、回答者の51%がデジタルルーブルを利用する意向はないと答え、利用意向があるとの回答は35%だった。40%は、現金ルーブルや非現金ルーブルと比べて利点がないとみている。
SuperJobが2025年12月から2026年1月にかけて実施した調査でも、給与の全額をデジタルルーブルで受け取りたいと答えた人は10%、一部受け取りを希望した人は5%にとどまった。67%は、新たな形での給与受け取りに反対した。
制度整備とインフラ構築は進んだが、実際の普及は消費者の受容性と企業現場での定着ペースに左右される見通しだ。