画像=既存のウォレットアドレスと鍵運用を維持したまま耐量子保護を追加する方式を示したイメージ(Reve AI)

American Fortressは、既存の暗号資産ウォレットのアドレスや鍵の運用を変えずに、将来の量子コンピュータによる攻撃に備える耐量子保護の方式を公表した。ビットコイン、イーサリアム、ソラナのウォレット基盤を維持したまま保護層を追加する仕組みで、大規模なウォレット移行を伴わない対応策として関心を集めそうだ。

Cointelegraphが28日(現地時間)に報じた。American Fortressは、既存ウォレットの鍵交換や資金移動なしに耐量子保護を追加できる暗号方式を公開した。

今回の方式は、ビットコインやイーサリアム、ソラナなどで使われている楕円曲線暗号(ECC)ベースのウォレットをそのまま使える点が特徴だ。一般的なポスト量子暗号への移行では、新たなアドレスの発行や資産移転が必要になるケースが多いが、この方式では既存アドレスを維持したまま量子耐性のある保護層を加える。

同社は技術文書を暗号学論文の保存庫「Cryptology ePrint Archive」で公開した。文書では、ビットコイン、イーサリアム、ソラナに加え、シードフレーズに基づく階層型決定性(HD)ウォレットとの互換性もあるとしている。一方で、研究は現時点で査読を経ていない。

仕組みも従来の発想とは異なる。ECC自体を置き換えるのではなく、既存のシードフレーズから生成したゼロ知識証明を使って追加の保護層を構築する。ネットワーク参加者がその証明を検証し、利用者は従来の秘密鍵で取引署名を続ける設計だ。

American Fortressは、既存ウォレットの構造を大きく変えずに、将来の量子コンピュータ攻撃に備えられるよう設計したと説明している。

同社は量子コンピュータのリスクを示す例として、Bloombergの分析にも言及した。十分な性能を持つ量子コンピュータが登場した場合、最大4700億ドル相当のビットコインが攻撃対象になり得るとの試算だという。

耐量子ウォレットを巡る開発競争も活発化している。Freedom Factoryは同日、イーサリアムおよびEthereum Virtual Machine(EVM)系ネットワーク向けのポスト量子ハードウェアウォレット「PQ1」を発表した。

American Fortressがソフトウェアベースの保護方式を打ち出したのに対し、PQ1は専用ハードウェアで生成したポスト量子暗号署名を用いる。Freedom Factoryは、SPHINCS+C10署名アルゴリズムとERC-4337スマートアカウントを組み合わせることで、将来の量子攻撃から取引を保護できると説明した。

こうした技術開発が進む背景には、主要ブロックチェーンで採用されている暗号方式が、長期的には量子コンピュータによって無力化される可能性への懸念がある。現時点では既存暗号を解読できる水準の量子コンピュータは実用化されていないが、業界では対応戦略の整備を急ぐ動きが広がっている。

直近では、Strategyが主導するコンソーシアムがビットコインの量子セキュリティ研究に1500万ドルを拠出する方針を示したほか、Ethereum Foundationはアカウントを耐量子暗号へ移行する案を検討している。Algorandも2027年までに量子耐性のあるアカウントを導入する計画を明らかにしている。

市場では今回の提案について、ウォレット移行やアドレス変更を伴わず、保護機能だけを強化できる点に意義があるとの見方が出ている。既存ウォレットを維持したまま保護層のみを追加できれば、ビットコインやイーサリアム、ソラナのような大規模ブロックチェーンでの移行コストや利用者負担を大きく抑えられるためだ。

もっとも、この技術はまだ査読前の段階にある。実際の安全性や実装のしやすさ、ネットワーク側の受容性が、今後の商用化を左右する焦点となる。

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