Bitcoinの耐量子移行を巡る議論で、量子コンピュータだけでなくAIも新たな論点として浮上している。Anthropicの研究を受け、ポスト量子暗号を支える数学的前提についても、AIの進化を織り込んで評価すべきだとの見方が広がっている。
ブロックチェーンメディアのU.Todayが28日(現地時間)に報じたところによると、Anthropicの先端AIモデルは、弱体化した暗号方式に対する新たな攻撃手法を発見した。これを受け、量子コンピュータに先立ってAIが暗号研究を大きく加速させる可能性に関心が集まっている。
議論の発端となったのは、Anthropicの「Claude MitOS Preview」モデルだ。報道によれば、このモデルは広く使われる暗号方式AESの弱体化版に対し、新しい攻撃法を見いだした。Anthropicは、このAIが生成した手法によって、対象アルゴリズムの解析速度が200倍から最大1000倍に高まったと説明している。
研究チームは今回の結果について、最先端AIモデルが暗号研究で独創的な成果を生み出す可能性を示したものだとしている。Anthropicはあわせて、ポスト量子暗号の署名方式であるHAWKに対する改良型の攻撃法も、このモデルが考案したと明らかにした。
こうした動きを受け、Bitcoinの将来の署名方式にも改めて注目が集まっている。Bitcoinは現在、取引承認にECDSAを採用しており、暗号研究者の間では、十分に高性能な量子コンピュータが実用化されれば、いずれ破られる可能性があると以前から指摘されてきた。このためBitcoin開発者は、ポスト量子署名方式への移行を検討しており、格子ベース暗号が有力候補の一つとされている。
もっとも、今回の研究が直ちにBitcoinやインターネット全体の安全性を脅かすことを意味するわけではない。研究チームは、今回の攻撃対象が実運用中の暗号システムではなく、研究目的で意図的に弱体化した方式だったと強調している。Anthropicも、現在使われているAESは引き続き安全だとしている。
市場関係者や業界の関心は、AIが暗号研究の進展をどこまで加速させるかに向かっている。Coin Centerのエグゼクティブディレクター、ピーター・バン・バルケンバーグ氏は、Bitcoinが格子ベースのポスト量子署名方式に移行した後でも、量子コンピュータが脅威になる前に、高度化した大規模言語モデル(LLM)がその安全性を先に揺さぶる可能性があるとの見方を示した。
この指摘は、差し迫った現実リスクを示すというより、セキュリティ設計において量子コンピュータの脅威だけを切り離して考えることは難しいという問題提起といえる。AIが数学的発見や暗号解析を加速し続けるなら、Bitcoinを含むブロックチェーン開発者は、ポスト量子セキュリティを検討する際、量子による解読能力だけでなく、AI起点の暗号解析の可能性もあわせて評価する必要がある。
その結果、Bitcoinの次世代署名方式を巡る議論は一段と複雑になりそうだ。現行の署名方式ECDSAを量子コンピュータが脅かす時期と、AIが将来の暗号方式の弱点を見つけ出す速度を同時に見極める必要があるためだ。現時点でネットワークが危険にさらされているわけではないが、ポスト量子移行の判断基準が変わる可能性は高まっている。
ピーター・バン・バルケンバーグ氏は、象徴的なシナリオとして次のように述べた。
「最も皮肉な展開は、Bitcoinがポスト量子の格子署名方式に移行した後、量子コンピュータがECDSAを破る前に、最先端のLLMが格子数学の弱点を突いてしまうことだ。Anthropicの研究は、AIによる数学の進歩が、量子計算の進歩と同等の脅威になり得ることを示している」