Wedbushでテクノロジー株を担当してきた著名アナリスト、ダン・アイブス氏が同社を退社し、商業銀行の設立に向けた準備に入った。AppleやNvidia、Microsoftに対する強気の見通しで知られた同氏が、金融サービス事業に自ら乗り出す動きとして注目を集めている。
米Business Insiderが2日付で報じたところによると、アイブス氏は8年間在籍したWedbushを離れ、大企業と富裕層を主要顧客とする商業銀行の立ち上げを進めている。
同氏は社内向けメールで、「Wedbushで過ごした時間を心から楽しんだ。優れた同僚とともに、強いテクノロジー部門を築けたことを誇りに思う」とコメントした。Bloombergのインタビューでは、新会社について、技術、エネルギー、インフラ、金融分野の企業を中心にサービスを提供する商業銀行になると説明した。
今回の退社は、単なる人事の話にとどまらないとの見方もある。アイブス氏は、分かりやすい語り口とテクノロジー株への強気な見通しで、ウォール街を代表するテクノロジーアナリストの1人として存在感を示してきた。
その代表例の一つがAppleに対する見方だ。アイブス氏は2016年から2018年にかけ、投資家がAppleをハードウエア企業としてのみ評価し、App Storeやサービス事業の価値を十分に織り込んでいないと主張していた。その後、2020年までにAppleのサービス売上高は2倍に拡大し、現在では時価総額4兆3000億ドル規模を支える重要な成長ドライバーの一つになっている。
生成AIの本格普及前には、Microsoftをその最大の受益企業の一つに挙げていた。OpenAIが2022年11月にChatGPTを公開した直後、MicrosoftがOffice、Copilot、AzureクラウドにAIを積極投入し、企業向けAI市場を主導するとの見通しを示した。その後、Microsoft株はおよそ2年にわたり大きく上昇した。
Nvidiaについても、市場に先んじた見方を示していた。当時、多くの投資家は同社をゲーム向け半導体メーカーとみていたが、アイブス氏は、主要企業が独自のAIを構築するうえでNvidia製チップは不可欠になると指摘していた。実際、大手クラウド事業者が2023年以降、AIインフラに数千億ドル規模の投資を進めるなか、Nvidiaは世界有数の企業価値を持つ企業へと浮上した。
アイブス氏は、個人ブランド戦略でも知られる。派手な色のスーツにスニーカー、野球帽というスタイルでCNBCなどの番組にたびたび出演し、高い認知度を築いてきた。昨年には、自身のスタイルを反映したアパレルブランドも立ち上げている。本人は過去に「服装のスタイルがグローバルでの認知度向上に明確に役立った」と語っていた。
業界では今回の動きを、アナリストとして築いたテクノロジー企業とのネットワークや市場での影響力を、金融事業へ広げる試みと受け止める向きがある。AIやテクノロジー企業を軸に、助言や資金調達への需要が高まるなか、投資判断の発信にとどまらず、金融サービスを直接提供する新たな事業モデルを模索する動きともいえそうだ。
新たな商業銀行の組織体制や資本規模、立ち上げ時期は現時点で明らかになっていない。ただ、テクノロジー株分析で築いたブランド力と業界ネットワークを背景に、その次の一手はテクノロジー業界と金融市場の双方で関心を集めそうだ。