イーサリアムの機関投資家向け窓口となる非営利組織「Ethereum Institutional」が7月1日、正式に発足した。Ethereum Foundationの機関対応機能を切り出して独立組織化したもので、銀行や資産運用会社との協業、政策対応を担う。
ブロックチェーンメディアのThe Defiantによると、これまでEthereum Foundation内の事業開発部門が担ってきた機関対応を分離し、金融機関向けの活動に特化した体制へ再編した。
狙いは、機関投資家や金融機関がイーサリアムのエコシステムと直接つながる公式な接点を整えることにある。Ethereum Institutionalのマネージングディレクター、デイビッド・ウォルシュ氏は、「機関投資家には、直接対話でき、取締役会にも説明できる、信頼できる独立した相手が必要だ」と述べた。
ウォルシュ氏は、新組織の役割について、機関投資家の要件を実装やスケール拡大につなげ、長期的にイーサリアムを機関金融の基盤レイヤーとして位置付けることだと説明した。
同組織は、この1年ほどEthereum Foundation内で進められてきた機関向け協業業務を引き継ぐ。財団予算と切り離した資金体制を整え、より明確なミッションと広域の地域ネットワークを確保したとしている。
発足に合わせて、機関向けの教育・協業、機関投資家の動向把握、ETHとエコシステムのマーケティング、標準化やベストプラクティスの整備、機関向けイベントの5分野で活動を始める。
拠点は既存のニューヨーク、ロンドン、香港、シンガポールに加え、チューリヒ、フランクフルト、東京、アブダビにも広げる計画で、各地域に専任責任者を置く方針だ。Ethereum Institutionalによると、財団在籍時から500件超の機関リレーションを築いてきたほか、運用資産総額約250兆ドル規模の機関に属する幹部150人超が参加した「Institutional Ethereum Forum」も運営してきたという。
背景には、トークン化とステーブルコイン市場の拡大がある。最高経営責任者(CEO)のジョセフ・シャロム氏は、「大手機関は関心の段階から実行の段階へ移りつつある」とし、トークン化やステーブルコイン、新たな金融市場インフラの領域でイーサリアムに追い風が吹いているとの見方を示した。
シャロム氏は、ステーブルコイン市場全体が12月までに5000億ドルに達し、その過半の活動がイーサリアム上で処理される可能性があるとの見通しも示した。
Ethereum Institutionalの理事会には、ウォルシュ氏、シャロム氏に加え、Bitmine会長のトム・リー氏が参加する。立ち上げ資金はBitmine Emergent Technologies、Sharplink、イーサリアム共同創業者のジョセフ・ルービン氏が拠出した。
この3者は、6月22日にEthereum Foundationの元シニア研究員5人が共同設立した別の非営利研究組織「Ethlabs」の立ち上げも支援している。
両組織の役割は異なる。Ethlabsは、イーサリアムのコンセンサス設計における15分ファイナリティ問題を含む、プロトコルエンジニアリングに注力する。一方のEthereum Institutionalは、銀行や資産運用会社を対象とした事業連携と政策対応を担う。
今回の発足は、Ethereum Foundationの組織縮小後に打ち出された。財団は6月23日、約270人の人員のうち約20%を削減し、ゼロ知識研究所を閉鎖したほか、2026年の運営予算も40%削減した。
さらに、現在は財務資産に対して年率約15%を支出する構造を、2030年までに約5%へ引き下げる基金型の運営モデルへ移行する方針も明らかにしている。
人材流出も続いている。今年1月以降、トマシ・スタンチャク氏やシャオウェイ・ワン氏(いずれも元共同マネージングディレクター)を含む幹部9人が財団を離れ、現在はバスティアン・アウエ氏が暫定的に統括している。
支援企業側でも機関投資家対応を見据えた動きが進む。トム・リー氏が率いるBitmineは、約570万ETHを含む暗号資産と現金を総額98億ドル保有していると開示した。企業保有分としては最大規模のETH財務準備金だとしている。
Sharplinkも6月30日、平均1611ドルで1万ETHを追加購入し、保有量を88万6725ETHに増やしたと発表した。あわせて、調達資金7500万ドルを使い、自社株210万株超を買い戻した。
イーサリアム基盤の資金流入も、こうした機関投資家対応の流れを後押ししている。DeFiLlamaによると、イーサリアム上のステーブルコイン時価総額は約1578億ドル、分散型金融(DeFi)の総預かり資産(TVL)は約367億ドル、実物資産連動(RWA)のトークン化市場は約143億ドルとなっている。
今回の組織再編のポイントは、イーサリアムの機関対応機能を財団の外に独立組織として切り出した点にある。プロトコル研究はEthlabs、市場や政策との接点はEthereum Institutionalが担う構図となり、役割分担はこれまで以上に明確になった。