電気自動車(EV)をはじめとするゼロエミッション車(ZEV)の普及は、気候変動対策だけでなく健康面でも大きな効果をもたらす可能性がある。ICCTは、米国で道路輸送のZEV化を進めた場合、2050年までに早期死亡を10万8400件、小児喘息の新規発症を4万2100件減らせるとの試算を公表した。
6月30日付のArs Technicaによると、ICCTは同報告書で、EVを中心とする車両の電動化が温室効果ガスの削減に加え、大気汚染の抑制を通じて健康被害の大幅な軽減につながると分析した。
ICCTは、米国では道路交通に起因する大気汚染により、毎年4万1800人超が早期死亡していると推計した。自動車の排ガスに含まれる窒素酸化物(NOx)や一酸化炭素(CO)、微小粒子状物質(PM2.5)、揮発性有機化合物(VOC)は、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)、虚血性心疾患、肺がん、脳卒中のリスクを高めることが知られている。
この研究は、FIA Foundationと共同で実施した。対象は乗用車と小型トラックに加え、大型貨物車、バス、トラクタートレーラー、二輪車・三輪車を含む道路輸送全体で、2050年までの排出量を予測した。
基準シナリオでは現行政策の継続を前提とした。比較シナリオでは、2045年までに全車両を100%ZEVへ転換する条件を設定し、一部地域については乗用車を2035年までに、大型商用車を2040年までに全面電動化する前提も織り込んだ。
分析では、米国を含む高所得国は現行政策の維持だけでも、NOxや粒子状物質の排出が大きく減る見通しとなった。一方、低所得国では車両更新の遅れや排出規制の弱さを背景に、汚染がむしろ50%超増える可能性があるとした。もっとも、積極的な電動化政策を導入すれば、国ごとの格差は大幅に縮小すると見込んでいる。
健康影響の多くが大型ディーゼル商用車に由来することも示された。大型貨物車は車両全体の約5%にとどまる一方、輸送エネルギー消費の36%、NOx排出の60%、PM2.5排出の55%、二酸化硫黄排出の65%を占めた。
二輪車・三輪車もエネルギー消費に占める比率は4%にすぎないが、PM2.5排出の14%、VOC排出の19%、CO排出の12%を占めると集計された。
ICCTは昨年、世界の交通部門の大気汚染により、約70万人が早期死亡し、約25万人の子どもが新たに喘息を発症したと推計している。早期死亡者数は中国が最多で、米国は小児喘息の新規発症が約2万3100件と最も高い水準だった。
報告書は、ZEV拡大の効果を最大化するうえで、大型貨物車の電動化が鍵を握ると強調した。バッテリー式電気自動車や水素燃料電池車を含むゼロエミッションの大型車は増えているものの、普及ペースは乗用車に比べて遅れているという。
米国のゼロエミッション大型トラックの普及率は2025年下期時点で4%に達し、昨年12月までの累計導入台数は7万2308台だった。2024年末からは約2万台増えた水準となる。
ICCTのプログラムディレクター、レイ・ミンハレス氏は「ゼロエミッション貨物輸送は、特にディーゼルトラックによる健康被害が大きい区間で十分な経済性がある」と述べた。そのうえで、「電動トラックの価格低下と普及拡大を後押しする政策が整えば、経済成長、エネルギー節減、大気質の改善を同時に実現できる」との見方を示した。
今回の研究は、EVシフトの効果を乗用車の普及だけに限定せず、大型商用車や二輪車まで含めた道路輸送システム全体の転換課題として示した。米国の電動化政策の実効性は、乗用車市場だけでなく、貨物車の更新ペースや地域ごとの規制水準にも左右される構図が改めて浮き彫りになった。