米新素材スタートアップのArcturusは、送電網のエネルギー損失を抑える次世代導体技術の開発で、シードラウンドとして800万ドル(約12億円)を調達した。AIの普及や産業の電化で電力需要が膨らむなか、既存の線径を変えずに送電効率を高められる技術として市場投入を目指す。
米ITメディアのTechCrunchが6月30日(現地時間)に報じた。Arcturusは、レーザー工程を使って銅やアルミニウムの内部に炭素ナノ素材を組み込む技術を開発している。導体内の発熱を抑え、より多くの電力を効率よく送れるようにするのが狙いだ。
同社の技術のポイントは、既存の電線サイズを維持したまま、より大きな電流を流せるようにする点にある。Arcturusによると、この新素材を従来の銅線の代替として使えば、送電網で熱として失われるエネルギーを最大で半減できるという。
その結果、平均で約3%、送電網の負荷が最も高い時間帯には最大10%の供給余力を生み出せるとしている。創業者兼CEOのアミル・マーシャル氏は、AIの普及と産業全般の電化が送電網に新たな負荷をかけているとしたうえで、「AIとほぼすべての産業の電化が同時進行し、送電網は過負荷に近づいている」と述べた。
Arcturusは、銅の供給逼迫も有望な商機とみている。エネルギー転換とデータセンター拡大を背景に、世界の銅需要は急速に増えているためだ。
一部の研究では、2050年までに、人類がこれまで採掘してきた量を上回る銅を新たに生産する必要があるとの見方もある。Arcturusは、銅の使用量そのものを増やすのではなく、同じ材料で効率を高めることが現実的な解決策になるとみている。
商用化は段階的に進める。まずは大規模な送電網よりも先に、ドローン、ロボット、データセンターを初期の適用分野に据える。
これらの分野では、電力効率が数%改善するだけでも、性能や運用コストへの影響が大きい。発熱が減れば冷却に必要な電力も抑えられるため、データセンターの運用効率向上にもつながるとしている。
マーシャル氏は、既存産業に導入しやすい点も強みとして挙げた。同社の素材は、銅やアルミニウムをそのまま置き換えられる「ドロップイン(Drop-in)」型で、システムの再設計や作業者の再教育を必要とせず、既存の製造工程に組み込めると説明している。
今回の調達はInitialized Capitalが主導し、Toyota Ventures、Breakthrough Energy Discovery、1517、Wireframe Venturesも参加した。これまで非公開で事業を進めてきたArcturusは、米カリフォルニア州マリブで、PoC段階として数センチメートル長の電線を製造できる水準にあるという。
調達資金は生産規模の拡大に充てる。今後は製造長を数十メートル規模まで広げ、電気モーターの巻線や配電機器のバスバーといった実際の産業用部品で性能検証を進める計画だ。
Arcturusは将来的に、ドローンの飛行時間延長、電気自動車の効率改善、データセンターの冷却コスト削減など、幅広い用途への展開を見込む。マーシャル氏は「ドローンの飛行時間を2倍にする、グラフィックスカードの発熱を減らすなど、各産業に共通するボトルネックを解消できる」とし、「当社の素材が電力効率を高める新たな基盤技術になることを期待している」と述べた。
AIデータセンター向け投資と電力インフラ投資が拡大するなか、銅を基盤とする既存インフラを維持しつつ効率を高められる新素材技術は、次世代送電網を左右する重要な要素の一つになりそうだ。