米イリノイ州が、暗号資産の取引や移転、カストディサービスに対して取引額の0.2%を課す「デジタル資産税法」を導入した。連邦レベルで暗号資産規制の整備が進んでも、州独自の課税権はなお残り、利用者の取引コストが州ごとに異なる可能性が浮上している。
CryptoSlateが29日(現地時間)に報じたところによると、同法はイリノイ州の住民向けに提供される暗号資産サービスが対象で、施行日は2027年1月1日。暗号資産交換業者やカストディ事業者、ブローカーなどが課税対象となる。
JB・プリツカー知事は6月中旬、総額559億ドルの州予算案に同法を盛り込み、署名した。個人間で直接ウォレット間送金を行うケースは対象外だが、取引所を介した大半の売買や資産移転には課税される。
今回の措置は、米連邦政府が進める暗号資産の統一的な規制整備とは別の論点として注目されている。連邦では、ステーブルコイン規制を定めるGENIUS法がすでに施行されており、市場構造を定めるCLARITY法も上院本会議での審議を控える。いずれも、発行体や取引所、ブローカー、トークンの法的位置付けや監督体制について、全国共通の枠組みを整備することを主眼としている。
一方で、連邦法が対象とするのは暗号資産の法的性格や監督権限であり、州政府の課税権そのものを制限する内容ではない。CryptoSlateは、連邦法が州法に優先するのは、連邦優先条項が明記されている場合や、州法と直接抵触する場合、あるいは州の裁量を実質的に排除する場合に限られると説明した。イリノイ州の新税は、暗号資産を証券として再分類する話ではなく、住民向けの商業活動に課税する仕組みであるため、連邦規制と正面から衝突しないとの見方を示している。
特に下院版のCLARITY法には、州政府がデジタル資産を独自に証券と定義することを禁じる条項が含まれるが、取引税の賦課まで制限する規定はない。州政府側では、連邦規制が拡大すれば、詐欺対策や送金規制、消費者保護に関する権限が弱まるとして警戒感も出ている。
焦点の1つは課税方式だ。今回の税は取引損益ではなく、取引総額を基準に課される。このため、損失が出た取引でも、取引規模に応じて0.2%の税負担が発生する。また、イリノイ州外のブローカーであっても、同州住民向けに年間10万ドル超を処理する場合は課税対象に含まれる。
ブローカーは州政府への登録に加え、売上税のような形で税を徴収する必要がある。そのため、取引所やブローカーが手数料の引き上げや売買スプレッドの拡大を通じて利用者に転嫁する可能性がある。CryptoSlateは、薄利多売型のマーケットメーカーや裁定取引業者への影響が特に大きいとみている。一部事業者がスプレッドを広げたり、イリノイ州住民向けサービスを制限したりする可能性も指摘されている。
業界では、この動きが他州に広がるかどうかにも関心が集まっている。暗号資産業界団体のCrypto Innovation Councilは、今回の取引税について、米国で最も懲罰的なデジタル資産課税だと評価した。株式や債券、デリバティブには同様の州単位の取引税がない点も、論点として浮上している。
業界推計では、この税によるイリノイ州の税収は年間約6000万ドルに上る見込みだ。他方で、施行中のGENIUS法や、上院審議を控えるCLARITY法には、州政府がデジタル資産取引に別途課税することを禁じる条項は盛り込まれていない。暗号資産業界が求めてきた全国一律の規制枠組みが整っても、投資家が負担する取引コストは州ごとにばらつく公算が大きい。
イリノイ州の事例は、連邦規制とは別に、各州が独自の課税政策を打ち出せることを示す先行例となる可能性がある。