Teslaの完全自動運転ソフト「Full Self-Driving(FSD)」について、米ウォール街で「多くの条件下では実質的にレベル4自動運転に近づいている」との見方が浮上している。根拠として挙がっているのは、高頻度利用者向けの保険料引き下げやロボタクシー向け投資、FSD契約者数の開示だ。一方で、悪天候時の性能や責任の所在を巡る課題は残っている。
電気自動車メディアのCleanTechnicaが11日付で報じたところによると、米投資銀行Piper Sandlerのアナリスト、アレクサンダー・ポター氏は、TeslaのFSDについて「少なくとも、多くの条件下では、実質的にレベル4の自律性に達している」との見解を示した。
FSDは現在も「監督型」として提供されているが、ポター氏は技術そのものの性能だけでなく、直近の事業面の動きにも注目した。なかでも重視したのが保険料の設定だ。FSDの利用頻度が高い顧客に、より低い保険料を適用している点について、保険金支払いリスクが高い商品であれば保険料を引き下げる合理性は乏しいと指摘した。
ロボタクシー事業に向けた投資も、同氏が挙げた根拠の1つだ。Teslaは4月から「Cybercab」の量産に入ったと同氏はみており、投資額は数億ドルから10億ドル超に膨らむ可能性があると試算した。FSDの大規模展開に一定の見通しがなければ、こうした資本投下には踏み切りにくいとの見方を示している。Teslaはテキサス州アービングで、200台分の駐車スペースと16基のスーパーチャージャーを備えた施設の整備に向け、許認可取得も進めているという。
普及段階入りを示す動きとして、FSD契約者数の開示も挙げた。Teslaは2026年1〜3月期から、これまで公表してこなかったFSDの契約者数を開示し始めた。ポター氏はこれを、FSDが初期導入層を超えて広がる段階に入ったことを示す動きだと受け止めている。Teslaは2026年上期中にロボタクシーサービスを7都市へ追加展開する方針も明らかにしている。ただ、同氏自身もこの目標については「非現実的かもしれない」としつつ、「トレンドは明確だ」と述べた。
同氏は自身の利用経験も紹介した。FSD搭載のTesla車を保有しており、4月にはモンタナ州ミズーラからミネソタ州ミネアポリスまで、FSDのみで走行した事例を挙げた。天候条件が良い場合には、人の介入なしで長距離走行を完了したケースが複数あったとしている。
もっとも、こうした見方に対する異論も少なくない。代表的なのは、悪天候時の対応力に関する指摘だ。雨や雪、強い日差しといった環境に十分対応するには、現行のセンサー構成では不十分だとの批判がある。複雑な都市部での走行でも、なお安定性に欠けるとの見方が続く。ミス自体は過去より減ったものの、利用者がシステムに慣れることで注意が緩み、介入が必要な場面で対応が遅れる恐れも指摘されている。
ロボタクシーの運行実績を巡る議論もある。テキサス州オースティンで運行中のTeslaロボタクシーについては、衝突関連データが期待ほど伸びていないとの指摘が出ている。Teslaは2025年末にオースティンでサービスを開始したが、運行台数はまだ限られているとされる。イーロン・マスク氏は2025年7月、「年末までに米国人口の半分程度が自動運転の配車サービスを利用するようになる」と語っていたが、足元の拡大ペースはこの発言に届いていないとの評価だ。
課題として残るのが、法的責任の枠組みだ。現状では、FSD使用中に事故が起きても、Teslaが運転者に代わって直接法的責任を負う仕組みにはなっていない。監督型FSDの統計を、非監督型自動運転の実用化準備を示す材料のように扱っているとの批判もある。技術性能の改善自体は明らかだとしても、それが直ちにレベル4の商用化を意味するかどうかは、なお別途の検証が必要だというわけだ。
今後の焦点は大きく2点に絞られる。1つは、Teslaが打ち出した都市拡大計画を実際に実現できるかどうか。もう1つは、監督型FSDの性能向上が、非監督型ロボタクシーの運行につながることを実証できるかどうかだ。サービス地域と運行規模を広げる過程で、安全データと責任の所在をどう示していくかが問われる。