LG ElectronicsのVS本部で研究委員を務めるキム・ヨンヨン氏は11日、大規模言語モデル(LLM)は機械工学分野でも実務で活用できる段階に入ったとの認識を示した。人工知能(AI)トランスフォーメーション(AX)の本質は、単なる技術導入ではなく、反復業務の削減や業務フローの再設計を通じてエンジニアの意思決定の質を高めることにあると強調した。
同氏は、Dassault Systèmes Koreaが開催した「シミュリア・ユーザーデータ 2026」の基調講演に登壇した。製造業ではエージェントAIの導入が急速に広がっており、AIが生み出す結果の信頼性も大きく高まっていると述べた。
これまでLLMは、ソフトウェア開発や現場業務での活用が中心で、ハードウェア開発では活用が限定的とみられてきた。だが、この1年で状況は大きく変わったという。
キム氏は、LLMはエンジニアリング分野でも専門家レベルの実務に対応できる水準に近づいていると説明した。事例としてContinentalを挙げ、テキストや画像の解析中心の手法から、マルチモーダルのVLM(ビジョン言語モデル)を活用したオントロジー基盤のナレッジグラフ構築へ移行した結果、モデル出力の信頼性が大幅に向上したと紹介した。
同氏によると、4年前に業界の中心テーマだったのは、データ加工や可視化を通じて業務効率化を図るデジタルトランスフォーメーション(DX)だった。これに対し現在は、多くの企業がLLMを活用したAXを中核課題として位置付けているという。
ハードウェアエンジニアの立場から見ると、AXはDXに比べて導入のハードルが相対的に低いという。LG Electronicsでも、AIの登場によって、DXの時代には難しかった仮説検証やプロセス改善で目に見える成果を出せるようになったとした。
その上で同氏は、AXの核心はAI技術そのものの導入ではなく、エンジニアの意思決定の質を高めることだと指摘した。AXは単なるAI導入ではなく、業務フロー全体の再設計として捉える必要があるという。
LG Electronicsでは、研究所のエンジニアが実際に研究開発にどれだけ時間を割いているかを調べた。その結果、本来の業務よりも、各種対応などの周辺業務に多くの時間を費やしているという、いわば「不都合な真実」が浮かび上がったと説明した。
データの分断も現実的な課題だった。個人のワークステーションやノートPC、社内サーバにデータが分散していたほか、研究所、品質、購買、生産の各部門がサイロ化し、協業を阻む要因になっていたという。
こうした状況を受け、LG Electronicsは製品企画から量産までの全工程を分析した。その結果、1製品の開発に関わる作業は440件を超えたという。
同社は各作業に対するAI適用の可能性を検討し、工程ごとのベストプラクティスを整理した上で、開発プロセスを再設計した。キム氏は、重要なのはAIが業務を代替することではなく、反復業務を減らし、エンジニアが本質的な判断に集中できる構造へ変えることだと重ねて訴えた。
世界の製造業では企業間競争が激しさを増しており、意思決定の質を高めるAXの戦略的な価値は一段と高まるとの見方も示した。特に、世界の自動車市場における中国勢の台頭に注目しているという。
同氏は、世界の自動車業界では平均的な製品開発期間が30カ月超であるのに対し、中国では18カ月以内で仕上げるケースが多いと説明した。中国勢は低コストかつ短期間で開発するだけでなく、品質面でも急速に追い上げているとし、1年前には「サイドミラーに中国が見え始めた」と言われていたが、いまや中国が先行する局面に入ったとの認識を示した。こうした競争圧力が、企業がAIを真剣に受け止める契機になっていると述べた。