米TechRadarは10日(現地時間)、イーロン・マスク氏が2012年に米カリフォルニア工科大学(Caltech)の卒業式で語った技術観が、改めて注目を集めていると報じた。Neuralinkをはじめとする先端技術の進展により、当時マスク氏が「魔法」に例えた未来像に現実味が増しているためだ。
マスク氏は当時のスピーチで、英国のSF作家アーサー・C・クラークの有名な言葉を引用した。クラークは1973年の著書「Profiles of the Future(未来のプロフィル)」で、「十分に発達した技術は魔法と見分けがつかない」と述べている。
マスク氏はこの言葉を引き合いに、「技術の進歩に貢献できるなら、それは魔法のようなもので、本当に素晴らしいことだ」と卒業生に語った。いまでは日常的に使われている技術も、かつては想像しにくいものだったと強調した。
さらに、「300年前なら、いま当たり前と思っていることのせいで火刑に処されていただろう」とも述べた。現代の技術は、過去の基準で見れば非現実的に映るほど急進的だとの認識を示した発言といえる。
こうした過去の発言が再び取り上げられている背景には、マスク氏が近年進めてきた先端技術プロジェクトがある。TechRadarはその代表例として、ブレイン・コンピューター・インターフェース(BCI)を手がけるNeuralinkを挙げた。
Neuralinkは、脳に埋め込んだデバイスを通じ、利用者が思考だけでコンピューターやスマートデバイスを操作できる技術を開発している。重度のまひがある患者や神経系疾患の患者が、デジタル機器をより自由に使えるよう支援することを目指している。
初期ユーザーの証言も、マスク氏のいう「魔法」の比喩を想起させるものとして紹介された。今年初め、Neuralinkの装置を使用した利用者はインタビューで、この技術を「魔法みたいだ」と表現し、「新しい希望を与えてくれた」と語った。10年以上前に語られた未来技術が、実際の体験として受け止められ始めていることを示す事例といえそうだ。
マスク氏は1990年代後半にオンライン金融サービスのX.comを共同創業。その後、電気自動車のTeslaや宇宙企業のSpaceXを率い、技術革新の象徴的な存在となった。近年はAI、BCI、ロボティクスへと取り組みを広げている。
今回の再評価は、新製品の発表や事業計画そのものよりも、マスク氏が長年掲げてきた技術観をあらためて照らし直す点に意味がある。
人と機械を直接つなぐ技術が実用段階に入り、AIも急速に進化するなかで、「十分に発達した技術は魔法と見分けがつかない」という言葉は、以前にも増して現実味を帯びている。
業界では、2012年のこの演説を、単なる技術進歩ではなく、技術が人間にどのような体験として届くのかを示した象徴的な発言として受け止める向きもある。かつてSFの世界に属していた技術が実装されるなか、マスク氏のいう「魔法のような技術」は、もはや比喩だけではなくなりつつある。