米主要大学の研究者らは、人工知能(AI)とブロックチェーンを組み合わせれば課題を一挙に解決できるとする業界の見方に対し、行き過ぎた期待があるとして代表的な「5つの誤解」を整理した。
ブロックチェーンメディアのCoinPostによると、コーネル大学を拠点とする学術研究コンソーシアムIC3は9日(米国時間)、論文「Crypto x AI, AI x Crypto: A Survey」を公表した。論文にはCornell Tech、Carnegie Mellon University、Princeton University、Yale Universityなどの研究者25人が参加した。
研究チームは、生成AIの普及を受けてAIとブロックチェーンの融合を巡る議論が急速に広がった一方、現実的な機会と技術的な限界の整理は十分ではないとみている。両者の組み合わせが新たな可能性を生む余地はあるものの、ブロックチェーンやトークン設計だけでAIの信頼性、公平性、コストの問題が解決するわけではないと指摘した。
論文では、AIとブロックチェーンの関係を相互補完的なミドルウェアとして捉えるのが妥当だと位置付けた。AIはブロックチェーンをより柔軟で使いやすい仕組みに改善でき、暗号技術はAIシステムのセキュリティやガバナンスの強化に役立つとしている。
AIのブロックチェーン分野での活用例としては、オンチェーン上の不正取引の検知、悪意あるスマートコントラクトの識別、コードの脆弱性分析などを挙げた。ただ、その多くは比較的単純な機械学習モデルに基づくもので、十分な学習データがある場合に効果を発揮しやすいとした。
一方で、ブロックチェーンや暗号技術がAIを補完できる領域もあるとした。ゼロ知識証明や信頼実行環境(TEE)は、AIシステムの安全性や検証可能性を高める手段になり得るという。分散型ガバナンスやインフラ運用など、暗号資産コミュニティが蓄積してきた手法も、主流のAI分野にはまだ十分浸透していないとの見方を示した。
論文が特に強調したのが、業界で広がる5つの誤解だ。
第1は、「ブロックチェーンがAI生成コンテンツそのものを見分けられる」という見方。論文は、ブロックチェーンで真偽確認用のメタデータを検証することはできても、コンテンツの内容だけを基にAI生成かどうかを判別することはできないとした。
第2は、「分散化技術がAIのバイアスや公平性の問題を解決する」という主張だ。分散型ガバナンスは意思決定の透明性を高める可能性がある一方、アルゴリズム内部にある偏りそのものを取り除くことはできないと指摘した。
第3は、「AIエージェントにウォレットを持たせれば、自ら稼ぎ、支出する自律的な存在になる」という見方。研究チームは、自動化と自律性は別の概念だと整理した。決済機能を備えてもAIエージェントが独立した経済主体になるわけではなく、決済の自動化にブロックチェーンが不可欠とも限らないと説明している。
第4は、「学習データや推論結果をブロックチェーンに記録すれば、信頼できるAI運用が実現する」という主張だ。ブロックチェーンは記録後の改ざん防止には有効でも、元データ自体の信頼性までは保証できないとした。加えて、大規模なAI処理の検証では、ブロックチェーンのスループットやコストが制約になり得るとした。
第5は、「分散化によってAIの学習・推論コストは必然的に下がる」という見方。論文は、ネットワーク遅延やスループットの条件次第では、分散型の構造が中央集権型よりむしろ高コストになる可能性があると指摘した。AIと暗号資産の組み合わせがコスト削減に直結するとの見方は、なお検証が必要だとしている。
今後の課題としては、AIの安全性を個別モデル単位ではなく、システム全体の観点から捉える必要性も挙げた。現在は入出力を制御するガードレールなど、モデル単位の対策に議論が集中しがちだが、AIエージェントが金融システムやインフラにより広くアクセスするようになれば、それだけでは不十分になる可能性があるとした。