Salesforceは6月10日、AIエージェント基盤「Agentforce」を軸に、企業の「エージェンティック・エンタープライズ」への移行支援を強化する方針を明らかにした。ソウル・COEXで開いた「Agentforce World Tour Korea 2026」で、自社の運用実績に加え、新たな製品構想「Headless 360」やFDEを含む支援体制を紹介した。
イベントに登壇したSalesforce Koreaのパク・セジン代表は、「いまやすべての企業がエージェンティック・エンタープライズへと進化すべき段階にある」と述べた。バックオフィス、データ、人材を有機的に結び付け、測定可能な事業価値を生み出すパートナーとしてSalesforceがその変革を支えると訴えた。
同氏は、AIエージェント導入で成果を上げるには、信頼できるデータと統合されたシステム基盤が欠かせないと強調した。顧客データ、業務コンテキスト、実行環境が単一の信頼できるプラットフォーム上で連携する必要があり、Salesforceがその役割を担うと説明した。
Salesforceはあわせて、自社がすでにエージェンティック・エンタープライズとして運用を進めている点もアピールした。社内では300以上のエージェントを展開し、年間220万件超の顧客対応を処理しているという。エージェントが生み出す年間の営業パイプラインは1億3000万ドルに達し、従業員7万5000人全員がエージェントを活用しているとした。Agentforce自体も現在、8億ドル規模のビジネスに成長したとしている。
具体例として挙げたのが、パイプライン自動化エージェント「Piper」だ。Webサイト訪問者の見込み客と24時間、テキスト、音声、映像を通じてコミュニケーションする仕組みで、すでにグローバルのWebサイトに導入済み。韓国のWebサイトにも年内に投入する予定だ。Salesforceは、Piperと社内の営業開発(SDR)エージェントの導入によって、パイプライン創出は従来比で2倍超に拡大するとの見通しを示した。
導入企業の成果も紹介した。Salesforceによると、Claudeの開発元AnthropicはAgentforce導入後、RevOpsの生産性が10倍以上に向上し、営業サイクルは60%短縮したという。
企業によるエージェント導入の本格化に伴い、Salesforceプラットフォーム上でのAI利用も急拡大している。大規模言語モデル(LLM)で消費されたトークン数は、2026年1〜3月期に29兆トークンとなり、前期比152%増だった。
一方で同社は、単純なトークン処理量よりも、エージェントが実際に実行した業務アクションを示す「Agent Work Unit(AWU)」を重視する姿勢を示した。同四半期のAWUは16億件で、前期比111%増。顧客企業ではエージェント導入により、バックオフィスにおけるデータ履歴を80%削減していることも明らかにした。
今回のイベントでは、オープンアーキテクチャを掲げる「Headless 360」も紹介した。Salesforce上に蓄積されたビジネスコンテキストを、API、MCP(Model Context Protocol)、CLI(Command Line Interface)を通じて外部のAIエージェントや他のプラットフォームと連携できるようにする製品だという。
中核となるのは、Salesforceに直接ログインしなくてもSlack上からSalesforceの機能を利用できる点だ。ERP、データレイク、レガシーシステムなどの外部データにも接続し、エージェント間の相互運用を実現するとした。
主要顧客の導入事例も披露した。POSCOはSalesforceをマーケティングAXの中核プラットフォームとして採用し、CRMデータを基盤にマルチエージェントのオーケストレーションを構築したという。
代表例として、営業コーチングを支援する「Sales Agent」と、顧客問い合わせに対応する「My POSCO Concierge Agent」を挙げた。POSCOのノ・ソンレ マーケティング戦略室長は、AIエージェントが情報の解釈と実行を支援することで、従業員が顧客との関係構築により集中できるようになったと説明した。今後はマーケティング領域にとどまらず、生産、品質、サプライチェーン全般へAXを広げる計画だ。
MUSINSAは、テック戦略の中核であるワンコア・マルチプラットフォーム(OCMP)を実装するにあたり、Salesforceを採用した。MUSINSA、29CM、Soldoutなど複数の運営チャネルと各国事業をコアプラットフォームでつなぐなかで、顧客データの管理・統合ニーズが高まったためとしている。
これを踏まえ、商品検索やレコメンドから交換・返品対応までを単一の対話ウィンドウで処理できるAIカスタマーサービスエージェントを構築したという。
MUSINSAのキル・ギヨン Core AI・CSエンジニアリングディレクターは、単なる相談対応にとどまらず、全社的な顧客・パートナー管理プラットフォームへ拡張できる柔軟性を重視してSalesforceを選定したと述べた。現在、29CMでは顧客問い合わせ全体の25%超をAIが処理しており、下期にはSlackベースのマルチエージェント・オーケストレーションを通じて、MDのブランドソーシング業務まで対象を広げる計画だ。
Salesforceは、エージェンティック・エンタープライズ導入を後押しするため、グローバルでFDE組織の稼働も開始した。韓国では下期から、Deloitte Digital、PWC、I2MAX、MegazoneCloud、Hyundai AutoEver、Samsung、LG CNS、SK Inc. AX、DKBMC、Daeyou Nextier、KU Convergence Software Research Center、Decentricなど約60社のパートナーにFDEを配置する。
パク代表は、「エージェンティック・エンタープライズへの転換をSalesforce Koreaがともに進める」としたうえで、「AgentforceとData Cloudのライセンスを無制限に試せる契約も韓国で利用できるようになった」と述べた。