中国で進む電気自動車(EV)の普及拡大が、大気汚染への曝露を減らし、最大26万2000人の早期死亡を回避した可能性がある――。そんな研究結果が明らかになった。EVの普及がPM2.5や窒素酸化物などの有害物質の削減につながり、公衆衛生の改善にも寄与したとみられる。
TechRadarが9日(現地時間)に伝えたところによると、中国の研究チームは、EV普及が大気環境と健康に及ぼした影響を分析した研究結果を公表した。
研究チームによれば、消費者のEVシフトが進んだことで、内燃機関車やハイブリッド車から排出される一酸化炭素(CO)や二酸化窒素(NO2)などが減少した。とりわけ都市部では、早期死亡の抑制効果が大きかったという。
分析には衛星観測データを用いた。実際の観測値と、EVが普及しなかった場合の想定シナリオを比較した結果、EV普及の拡大に伴ってCO濃度は約30%、PM2.5濃度は約23%低下したとしている。
こうした大気環境の改善は、肺がんや呼吸器疾患、脳卒中、心血管疾患など、大気汚染に関連する主要疾患の死亡率低下にもつながったと研究チームは分析した。EV普及の進展後は、毎年数千人規模で早期死亡が抑えられ、累計では最大26万2000人が早期死亡を免れた可能性があると推計している。
今回の研究は、中国政府が数年にわたって進めてきたEV育成策の健康面の効果を示す事例として注目される。中国はEV産業の育成に向け、数千億ドル規模の補助金や支援策を講じてきたほか、その過程でBYDやGeely AutoといったグローバルEV企業も成長した。研究によると、昨年、中国で販売された新車の過半がEVだった。
一方で、EV普及の恩恵が地域ごとに均等に現れたわけではない。都市部では窒素酸化物や微小粒子状物質の低減効果が明確に確認された一方、農村部や中小都市では改善幅が相対的に小さかった。
背景には、EV普及率の違いに加え、充電インフラの不足や地域間の所得格差があると研究チームはみている。
共同研究チームは今回の結果について、「励みになる結果ではあるが、慎重な解釈が必要だ」と評価した。大気環境の改善効果は明確に表れたものの、新車を購入する力や充電インフラへのアクセスに優れる大都市ほど、相対的に大きな恩恵を受けていたためだ。
EVの環境効果を巡っては、なお議論も残る。EV自体は走行時に排ガスを出さないが、充電に使う電力が化石燃料由来であれば、排出源が発電部門に移るにすぎないとの指摘がある。実際、中国では今年4月時点で、電力生産の約55%を石炭火力に依存している。
このため専門家は、EV普及の拡大と並行して発電部門の脱炭素化を進めることで、環境効果を最大化できるとみている。中国はカーボンニュートラル目標の達成に向け、太陽光、風力、水力の発電比率拡大を進めている。
今回の研究は、EV普及が単なる炭素排出の削減にとどまらず、健康や公衆衛生の面でも実質的な便益をもたらし得ることを示した。一方で、その効果は電源構成や地域間のインフラ格差に左右される余地も大きく、よりバランスの取れたエネルギー転換政策が課題となる。