米銀大手のJPMorgan Chaseが、長時間にわたり自律的に業務をこなすAIエージェントの導入を本格化する。単純作業の自動化にとどまらず、複数の工程をまたぐ業務を自ら処理し、複数のソフトウェアを横断して動く「デジタル社員」の実用化を視野に入れる。
CNBCが9日(現地時間)に報じたところによると、同社は単一タスクの処理にとどまらない、長時間自律型AIエージェントの配備を進めている。
デリック・ウォルドロン最高分析責任者(CAO)は最近のインタビューで、AIエージェント技術は「長時間自律型(long-duration agent)」の段階に入りつつあると説明した。従来のAIエージェントが人の指示を受けて2〜3分ほど作業する水準だったのに対し、今後は1〜2時間にわたり一定の目標に沿って業務を遂行できるレベルへ発展しているという。
これは、生成AIを巡る競争の軸が、単純なモデル性能から、実務をどこまで長時間かつ安定的に処理できるかへ移りつつあることを示している。
JPMorgan Chaseは、長時間自律型AIエージェントがまだただちに現場投入できる段階にはないとしながらも、企業利用に耐えうる水準に急速に近づいているとみている。ウォルドロン氏は、セキュリティとガバナンスの課題は残るものの、2026年にはこうしたAIエージェントを保有する見通しを示した。
年間の技術投資額が200億ドル(約3兆円)に達する同社は、AIを単なる業務支援ツールではなく、業務フローを直接管理するデジタル人材へと発展させることに注力している。
ウォルドロン氏は、AI競争力の核心はモデル自体の知能ではなく、人の介在なしにどこまで安定して業務を遂行できるかにあると強調した。同氏はこれを「知的一貫性(intellectual consistency)」と表現し、最新のAIエージェントは個々の実務担当者というより、チームを束ねる管理者に近い役割を担い始めていると説明した。AIが業務を細分化し、適切なツールに作業を割り振りながら、全体のプロセスを管理する方向に進化しているという。
技術進歩のスピードも速い。最近のAIエージェントはコード生成に加え、Webブラウザの操作やデスクトップアプリケーションの制御までこなせるようになっており、より複雑な業務への対応力を高めている。
こうした進化に伴い、生産性向上の効果は開発部門やバックオフィスにとどまらず、収益に直結する領域にも広がっている。代表例として挙げられるのが、JPMorgan Chaseの個人資産管理部門だ。同部門ではAIシステムが、夜間に生じた市場変動や顧客ポジションの変化、リサーチ資料などを自動で分析し、従業員に提供している。
その結果、従業員は資料収集よりも顧客対応に集中しやすくなった。ウォルドロン氏は、こうしたAI活用によって同部門の売上が約20%伸びたと明らかにした。今後は、各従業員が担当できる顧客数が最大50%増える可能性があるとの見方も示した。
AI普及に伴う人員構成の変化にも注目が集まっている。ジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)は、すでに一部の職務がAIに置き換わる可能性に言及している。同社は影響を受ける従業員向けに、再教育や配置転換のプログラムを用意しているという。
一方でウォルドロン氏は、企業がAIを単なるコスト削減手段として捉える段階は過ぎつつあると強調した。AI競争の要諦は、できるだけ多くの雇用を減らすことではなく、持続可能な競争優位を確保することにあるとし、足元ではコスト削減よりも売上拡大への効果に関心が移っていると述べた。
AIの進展は、大手金融機関のソフトウェア調達戦略にも変化をもたらしている。JPMorgan Chaseは、外部ソフトウェアを購入する代わりに、AIを使って必要な機能を社内で直接開発できるかを優先的に検討していることも明らかにした。ウォルドロン氏は、こうした変化によって、従来型ソフトウェア企業の参入障壁がこれまでより下がる可能性があるとの見方を示した。
業界では、JPMorgan ChaseのAIエージェント導入計画が、金融業界におけるAI活用の次の段階を示す事例になるとの受け止めが出ている。補助ツールにとどまらず、実業務を担う自律型AIが、金融機関の業務構造と技術投資戦略を同時に変え始めている。