写真=トム・ノイズ氏のWebサイト

VisaとMastercardが、ともにステーブルコインを次の成長分野として位置付け、投資を拡大している。もっとも、その進め方は対照的だ。Mastercardは買収を通じてインフラを取り込み、Visaは提携網を広げることでエコシステムの拡大を図っている。

フィンテック・決済分野の専門家であるトム・ノイズ氏は、両社の戦略を「中央集権的な保有」と「分散型のイノベーション」の違いだと分析する。Mastercardが自前で基盤を押さえる方向に動く一方、Visaはパートナーとの接続を広げる形で市場開拓を進めているという。

Mastercardは2026年4月、ステーブルコインのB2B決済インフラを手掛けるBVNKを18億ドルで買収すると発表した。BVNKは、企業向けにステーブルコインと法定通貨の送受信、両替、保管を一体で提供するB2Bプラットフォームを展開する。買収発表時点で、同社の年間ステーブルコイン決済処理額は300億ドルを超えていた。

ノイズ氏によると、Mastercardの狙いは大きく3つある。第1に、従来のカードネットワークでは効率的に扱いにくかったB2Bの越境決済、グローバル決済、送金、ウォレットへのチャージといった新たな決済フローを取り込むこと。第2に、同社売上高の約4割を占める付加価値サービス(VAS)に続く新たな収益源を確保すること。第3に、AIエージェントによる自律決済市場を見据えることだ。

ノイズ氏は、「Mastercardが立ち上げたAgent PayとBVNKを組み合わせれば、パートナーを介さずにエージェント主導の決済を直接処理できる」と指摘している。

これに対し、Visaは異なる道を選んだ。ステーブルコインのインフラを自社で抱え込むのではなく、パートナー網を通じてエコシステムを広げる戦略を採っている。2026年第2四半期のVisaのステーブルコイン連動カード取引量は、前年同期比で約200%増加した。世界では160超のステーブルコインカードプログラムを展開している。

ノイズ氏によると、Visaのステーブルコイン決済規模は2026年第1四半期の年換算ベースで46億ドルだったが、第2四半期には70億ドルまで拡大した。こうした実績は、インフラを直接保有しないまま実現したものだという。

同氏は、「VisaはRain、Reap、Bridgeといったパートナーが、自社のステーブルコイン基盤と顧客接点を維持したまま、Visaネットワークに接続できるようにしている」と説明する。

Stripeとの連携も目立つ。Stripeと、Stripe主導のレイヤー1ブロックチェーン「Tempo」との協業を通じ、Visaは決済レイヤーとしての役割を担っている。Stripeはすでに160カ国でステーブルコイン決済サービスを提供している。

両社の戦略には、それぞれ強みと課題がある。Mastercardの中央集権型モデルは、技術の統制や収益の取り込み、法人顧客に対するワンストップ提供で優位性を持つ半面、単一投資家、単一ロードマップ、単一障害点に依存する構造的な制約も抱える。

一方のVisaモデルは分散型だ。Visaが決済ネットワークを提供し、各パートナーがそれぞれステーブルコインの機能、顧客基盤、地域展開に投資する。Stripeは開発者向けプラットフォームを、Tempoはマシン決済を支援し、RainとReapは特定の越境ルートをカバーする。

ノイズ氏は「Visaはすべてを自社で構築する必要がない。パートナーが解決する新たなユースケースは、そのままVisaネットワークを流れる新しい決済フローになる」と述べた。

その上で同氏は、相対的にはVisa方式に優位性があるとの見方を示した。「Visaの分散型イノベーションモデルは、Mastercardの中央集権型プラットフォームよりも、ステーブルコイン取引量当たりで多くの付加価値サービス収益を生み出す可能性がある。より多くの独立したプレーヤーが、取引量を押し上げるユースケースや流通、ローカライズに投資するためだ」としている。

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