BitMEX共同創業者で、暗号資産投資会社Maelstromを率いるArthur Hayes氏は、主要アルトコインの一部の保有を全て売却し、ポートフォリオをビットコイン(BTC)とイーサリアム(ETH)中心に組み替えたと明らかにした。AI投資ブームが短期的に失速すれば、暗号資産を含むリスク資産全般が調整局面を迎える可能性があると警戒している。
CoinPostが9日付で伝えたところによると、Hayes氏はSubstackで公開したリポート「Reality Test」の中で、Hyperliquid(HYPE)、NEAR Protocol(NEAR)、Worldcoin(WLD)、Zcash(ZEC)を全て売却したと説明した。ZECについては、Orchardプールを巡る脆弱性に関する最近の問題提起が、売却判断に影響したとしている。
同氏はこのところポートフォリオを大きく見直したという。エネルギー関連銘柄の比率を引き上げる一方で、AIと半導体関連資産は全て売却した。暗号資産についても、実質的にBTCとETHを軸とする構成に改めたとしている。
背景にあるのは、AI産業の採算性と資金調達環境への懸念だ。米国とイランの軍事的緊張が長引けば原油価格が上昇し、データセンターやAIモデルの運用に必要な電力コストを押し上げる可能性がある。そうなればAI関連企業の収益を圧迫し、大規模な設備投資の継続性にも疑問が出るとみている。
AI投資ブームを冷やしかねない要因としては、原油高に加え、SpaceX、Anthropic、OpenAIによる大型新規株式公開(IPO)や資金調達、さらにドナルド・トランプ米大統領による反AI政策の可能性を挙げた。
特にSpaceXの上場については、市場の流動性を左右するイベントになると指摘した。SpaceXは売上高の約100倍に相当する評価額でIPOを準備しており、9月にはロックアップ解除により流通株式数が最大5倍に増える可能性があるという。同じ時期にAnthropicやOpenAIも大型の資金調達に動けば、投資マネーがAI分野へ一段と集中するとの見方を示した。
政治面のリスクにも言及した。Hayes氏は、トランプ大統領が11月の中間選挙を前に、AIへの課税強化やデータセンター建設規制を公約として掲げる可能性があるとみる。「政治は公約を守らなくてもよいが、市場は発言を額面通り受け取り売る」と述べ、政策が実際に実行される前でもAI関連株が急落するリスクがあると警告した。
加えて、新FRB議長のケビン・ウォーシュ氏の下で利下げが実施されなければ、リスク資産全般の重荷になり得るとも指摘した。
同氏は、ビットコインがここ数年、市場の期待ほど上昇しなかった背景にもAI投資ブームがあると分析する。2022年末以降、AI企業による債務発行の規模は約1兆5000億ドル(約225兆円)に達し、同期間に増加した世界の流動性とほぼ同水準だと主張した。
「AIがドル流動性をほぼ吸収した結果、ビットコインには十分な資金が流入しなかった」とも述べた。AIや半導体関連銘柄に資金が集中し、暗号資産市場に向かう流動性が制約されたという見立てだ。
もっとも、中長期では強気姿勢を維持している。AIバブルが崩れ、金融市場全体が揺らげば、各国の中央銀行は再び流動性供給に動くと見込む。その結果、増加した流動性がBTCとETHの上昇につながる可能性が高いとみている。
このため短期的には、デリバティブを活用して市場下落リスクをヘッジする一方、現物のBTCとETHは保有を続ける戦略を選んだと説明した。
Hayes氏は「夢から覚めても現実が変わっていないなら、9月前に利益を確定しただけのことだ」と述べ、当面は慎重に市場を見極める姿勢を示した。市場では今回のポートフォリオ調整について、AI投資ブームと暗号資産市場の関係を映すシグナルとして注目が集まっている。