米ニューヨーク州裁判所は、長期休眠状態にあるビットコインの所有権を原告側へ移すよう求めた訴訟について、追加手続きを一時停止した。訴訟対象に含まれる古いアドレスの一部で最近になって資金移動が確認され、原告側が掲げる「放棄財産」との主張に疑義が生じている。
ブロックチェーンメディアのCryptoSlateが8日付で報じた。裁判所は7月14日に予定するアミカスブリーフ(法廷意見書)の審理まで、原告側による確認判決の申し立てに関する追加手続きを止めるとした。
訴訟は、Noah DoeとABC Company、XYZ Companyが、John Doe 1から39,069を相手取って提起したものだ。原告側は、対象となるビットコインウォレットが実質的に失われ、放置された資産に当たるとして、ニューヨーク州個人財産法7-B条を根拠に所有権の移転を求めている。
争点は、秘密鍵を持たない状態でも、裁判所が特定当事者にビットコインウォレットの法的権利を認められるかどうかにある。原告側は、長期間動きのないウォレットは事実上の放棄財産として扱うべきだと主張してきた。
ただ、ここにきて前提を揺るがす動きが確認された。訴訟対象に関連する古いビットコインアドレス「1LwWtSs7tMCwcRczQd5kVMv3xpWw6w4Sxe」から2日、約35.55BTCが移動した。長期休眠状態にあったアドレスで、実際に出金取引が発生した格好だ。
取引を実行した人物は特定されていない。もっとも、この動きは少なくとも誰かが当該アドレスの秘密鍵を保持していたことを示す事情と受け止められている。ビットコインでは、有効な秘密鍵による署名なしに資産を移動できないためだ。
このため、原告側の主張との整合性が問われている。原告側は、長期間活動がないことを根拠にウォレットは放置されていると主張してきたが、今回の取引は少なくとも一部のアドレスがなお管理可能な状態にあった可能性を示している。
法曹界からの異論も出ている。今回の手続き停止のきっかけとなったのは、弁護士のイアン・R・コーエンが提出したアミカスブリーフだ。コーエン氏は、ニューヨーク州個人財産法7-B条は本来、警察に引き渡し可能な有体財産を前提に設計された法律だと指摘した。
あわせて、公的ブロックチェーン上でアドレスを見つける行為は、同法が想定する意味での「発見」には当たらないと主張した。アドレスを確認しただけでは当該資産や秘密鍵を占有したことにはならず、長期間動きがないという理由だけで、保有者が財産を放棄したと断定することもできないとしている。
この案件は、一般的な遺失物の扱いとも異なる。ニューヨーク州には暗号資産の休眠財産に関する規定があるが、これは取引所やカストディアンなどが保管する資産を一定期間後に州政府へ移管する手続きを定めたものだ。個人が直接管理する自己管理型ウォレットに適用する想定ではない。
市場への影響も小さくない。Galaxy Researchは、訴訟対象の39,069アドレスに計379万9629BTCが保管されていると推計している。現行価格ベースでは約2400億ドルに相当する規模だ。手続き上、欠席判決だけで結論が出た場合でも影響が大きいとみられる理由である。
もっとも、裁判所が特定当事者に所有権を認めたとしても、実際にビットコインを移動できるかどうかは別問題だ。ネットワーク上では、引き続き秘密鍵を持つ主体だけが資産を送付できるからだ。一方で、将来これらのコインが取引所やカストディアンなどオフチェーンの管理下に移された場合には、ニューヨーク州の判決を得た当事者が競合する請求を起こす余地も残る。
業界では、本件がデジタル資産における法的所有権と、ブロックチェーン上の実効支配が別概念であることを示す象徴的な事例になり得るとの見方が出ている。7月14日の審理で裁判所が欠席判決の手続きを進めるのか、それとも訴訟の法的前提そのものを見直すのかが、当面の焦点となる。