韓国政府は、若年層の自殺対策を省庁横断で強化する。学校内外での心の健康支援を拡充するほか、オンライン上の有害情報対策や、相談から治療までの連携を予防から回復までの各段階で強める。
韓国教育部は9日、「青少年自殺予防・全省庁推進対策」を発表した。5月の国務会議で議論された「9大分野別自殺予防対策」の一環として位置付ける。
対策には教育部のほか、国務調整室、保健福祉部、女性家族部、行政安全部、文化体育観光部、科学技術情報通信部、法務部、国土交通部、放送通信委員会、食品医薬品安全処、国家データ庁、個人情報保護委員会、警察庁、消防庁の15省庁が参加する。
政府は、ここ10年にわたり青少年の自殺死亡者数が増加傾向にあることに加え、メンタルヘルスの問題で医療機関を受診する青少年も増えているとして、体系的な対応が必要だと判断した。
教育部によると、青少年の自殺死亡者数は2016年の273人から2025年には396人に増加した。0〜19歳の精神科診療人数も、2021年の27万4000人から2025年には43万1000人に増えたと推定している。
関係省庁は「予防」「感知」「介入」「回復」「基盤整備」の5戦略と15課題を策定した。2024年時点で人口10万人当たり8人の青少年自殺率を、2030年に6.5人、2035年に4.2人まで引き下げる目標を掲げる。
◆学校内外で予防を強化、オンライン上の有害要因にも対応
予防段階では、学校内での自殺予防教育に加え、社会情動教育や体育・芸術教育を強化する。全教科横断で6コマ実施している社会情動教育は、17コマまで拡大する方針だ。
保護者や教員の「生徒の心の健康」への対応力を高める教育も広げる。教員資格研修に関連内容を必須で盛り込み、教員養成機関の課程でも関連科目の必修化を進める。
オンライン上の有害要因への対応も拡充する。デジタル過依存の予防教育やデジタルデトックスキャンプを運営するほか、自傷・自殺を誘発する情報についてはAIを活用して24時間監視し、プラットフォーム事業者に是正を要請する。
この分野では、科学技術情報通信部や放送通信委員会、個人情報保護委員会、国家データ庁などがオンライン情報管理やデータ基盤整備を担う。文化体育観光部は、青少年向けの文化・芸術活動や、映像コンテンツにおける自殺場面のガイドライン普及を支援する。
あわせて、青少年の自殺事案に関する報道禁止や、違反時の罰則規定整備も検討する。映像コンテンツ内の自殺場面ガイドラインの周知や、審議規定違反に対する制裁強化も進める。
◆心の健康教育を拡大、高リスク層の相談・治療支援を強化
感知段階では、危機にある青少年の早期発見に向け、選別検査を改善する。「心のCPR教育」を通じて、教員や青少年のライフガードも増やす。
学校外の青少年に対しては、学校外青少年支援センターによる孤立・ひきこもり青少年向けのワンストップサービスを拡大する。関連センターは2025年の12カ所から2026年には14カ所に増やす計画だ。
警察と消防が把握した自殺未遂者情報の共有先を、従来の自殺予防センターや精神健康福祉センターから、広域市・道の教育庁まで広げる案も進める。現場対応で得た情報を教育行政機関と連携し、危機管理体制の強化につなげる狙いがある。
年内には、AIを活用した危機兆候の発掘システムを構築する。また、精神健康状態の検査を健康診断と連携させる可能性も検討する。保健福祉部や食品医薬品安全処は、精神健康支援や治療連携、医療基盤の拡充を担う。
介入段階では、学校の相談基盤を強化する。Weeクラスの設置や空間再編、Weeセンター機能の高度化を進めるほか、全学校への専門相談教員などの配置を推進する。
学校外の相談サービス強化に向けては、青少年相談福祉センターの人員拡充や、1388電話相談の統合管理システム導入も検討する。危機にある青少年への治療支援として、緊急支援チーム、心バウチャー、病院型Weeセンター、青少年専用病棟・病床の拡充も進める。
保護者の協力を得にくい危機生徒については、3月に施行された緊急支援制度の実効性を高めるため、地域の相談機関や医療機関との連携を強化する。法務部は、制度運用における青少年の権利保護や法的基盤の検討を支援する。
地域連携も強める。自治体の自殺予防担当が総括し、教育庁が主導的に参加する「(仮称)青少年ライフガード地域安全網協議会」を設置し、高リスク青少年のケース管理や迅速な対応体制を整える。
行政安全部、女性家族部、国土交通部なども、地域の安全網構築、危機家庭や青少年への支援、自殺多発場所の管理など、分野別の課題を担う。
◆回復支援と政策基盤を拡充、2027年に心理解剖を本格運用
回復段階では、自傷や自殺未遂を経験した生徒の学校復帰と再適応を支援する。地域安全網協議会を中心に事例を統合管理し、保護者や担任教員らとの連携を通じて再企図防止を図る。
生徒の自殺事案が発生した学校には、友人へのグリーフ教育や、教員のバーンアウト防止活動などの回復プログラムを提供する。自殺で亡くなった青少年の遺族向けワンストップサービスも拡大する。
生徒の心の健康支援に向け、教育行政機関の財政・人員も増強する。普通交付税総額の1%水準を目標に、基準財政需要へ「生徒心の健康支援費」を反映する範囲を段階的に広げる。
教育庁と教育支援庁では、生徒の心の健康支援を担う専任人材を約200人確保する。また、「生徒の心の健康増進および情緒行動支援に関する法律」の制定を通じ、国・自治体・家庭・学校の責務を明確化し、生徒支援や専門機関設立の法的根拠を整備する。
2027年からは、青少年心理解剖事業を本格運用する。自殺死亡者が残したデジタル情報や死亡統計を分析し、原因不明事例を減らすとともに、エビデンスに基づく予防策の策定に活用する考えだ。
青少年のAI相談への依存が増えていることを踏まえ、AI過依存に関する注意喚起も並行して進める。関係省庁と民間が連携し、青少年の心の健康に配慮した環境整備や、生命尊重文化の普及に向けたキャンペーンも展開する計画だ。
チェ・ギョジン教育部長官は「青少年の自殺は、個人の心理的・情緒的安定や学校共同体の努力だけで解決できる課題ではない」と述べたうえで、「家庭や学校にとどまらず、地域社会やメディアなど各界が有機的に協力できるよう支援する」と語った。