SpaceXとAnthropicが新規株式公開(IPO)に向けた手続きに入り、OpenAIもこれに続く可能性が出てきた。市場の関心は大型IPOそのものよりも、上場後の指数採用やロックアップ解除に伴う株式需給の変化に集まっている。
8日付のオンラインメディア「Gigazine」によると、3社がそろって上場した場合、新たに市場に加わる時価総額は最大4兆ドル(約600兆円)規模に達する可能性がある。焦点は、超大型の未上場テック企業が公開市場に移る局面で、米株式市場がその株式供給をこなし切れるかどうかだ。
SpaceXは5月中旬、米証券取引委員会(SEC)にIPOの登録届出書を提出した。調達額は約750億ドル(約11兆2500億円)、企業価値は約1兆7500億ドル(約262兆5000億円)と見込まれている。
Anthropicも6月1日、SECにIPO登録届出書の草案を非公開で提出した。公開株数や価格は未定だが、直近の資金調達時点の評価では企業価値は9650億ドル(約144兆7500億円)とされた。OpenAIについても、近く登録届出書を提出する可能性がある。
3社がすべて上場すれば、調達総額は2000億ドル(約30兆円)を超える可能性がある。SpaceXとAnthropicだけでも、それぞれ600億ドル(約9兆円)超の資金調達が見込まれており、短期間に大量の新規株式を市場が吸収できるかが問われる。
Interactive Brokersのチーフストラテジスト、スティーブ・ソスニック氏は、主なリスク要因として指数採用を挙げる。主要指数への早期組み入れが決まれば、これらの指数に連動するファンドや上場投資信託(ETF)は、上場直後から相応の株式を買い入れる必要があるためだ。
もっとも、初期段階の需給インパクトは限定的との見方もある。Russell3000構成企業の時価総額は約79兆ドル(約1京1850兆円)、S&P500は約69兆ドル(約1京350兆円)に上る。SpaceXがS&P500に組み入れられたとしても、当初の構成比率は約0.1%にとどまると推計されている。
また、Nasdaq100が流通株を反映する算定ルールを見直し、比率を最大3倍まで持てるようにした場合でも、初期比率は約0.5%にとどまる見通しだという。
真の焦点は上場直後ではなく、その後の売り圧力にある。ロックアップ条項により、内部者や初期投資家はIPO時点で保有株を直ちに売却できないが、解除後は大量の株式が段階的に市場に出回る可能性がある。企業規模が大きいほど、需給への影響も大きくなりやすい。
SpaceXについては、そのスケジュールが比較的明確に示されている。750億ドル(約11兆2500億円)規模の株式を発行し、企業価値が1兆7500億ドル(約262兆5000億円)に達した場合、当初の流通株比率は約4%になる見通しだ。
イーロン・マスク氏の保有株式の約半分は、IPO後366日間は売却できない。一方、残る株式については、より早い段階でロックアップが解除される。
第1四半期決算の発表後、内部者は保有株式の20%を売却できる。株価が公募価格を30%超上回った場合は、さらに10%の売却が可能になる。
高バリュエーション銘柄の上場後パフォーマンスに対する警戒感もある。フロリダ大学のジェイ・リター氏の分析では、1980~2024年に上場した企業の3年リターンは市場平均を20ポイント下回った。売上高の40倍超で評価された企業では、その低迷幅が58%とさらに大きかったという。
企業価値1兆7500億ドル(約262兆5000億円)を前提にすると、SpaceXの評価額は売上高の90倍を超える。投資熱が強まったとしても、長期的にはバリュエーション負担が重しになり得ることを示唆している。
AIと宇宙産業を代表する大型未上場企業が一斉に公開市場へ移れば、当初は指数採用やパッシブ資金の流入が株価を支える可能性がある。ただ、ロックアップ解除後に内部者や初期投資家の売却が本格化すれば、市場は改めて需給面の重荷に直面する可能性がある。
今回の論点は、大型IPOの規模そのものではない。上場後の指数採用とロックアップ解除が需給にどう作用するかであり、企業価値を膨らませた未上場テック企業の上場ラッシュは、米株式市場の吸収力を試す局面となりそうだ。