画像=Reve AI

企業内データをAIに取り込み、組織の業務文脈を理解したうえで実行まで担わせる基盤を巡り、競争が激しくなっている。大規模言語モデルそのものの性能差より、企業固有のデータやルール、業務フローをどうAIに接続するかが差別化の軸になりつつある。

こうした基盤は、AIに企業の文脈を与える「OSのような役割」を担うものとして位置付けられている。Microsoft、Snowflake、Adobe、SAPなどエンタープライズソフト各社は、AIエージェント時代の主導権を握る戦略領域とみて、相次いで関連機能や構想を打ち出した。

Microsoftは開発者会議「Build 2026」で、AIが企業の文脈を理解するための新製品3種を公開した。Microsoft Fabric部門のCTO、アミル・ネッツ氏は、企業向けAIは組織の動きを理解する「内部関係者」のような存在であるべきだと指摘。「エージェントが信頼して動作するには、組織の記憶に当たる『コンテキストレイヤー』が必要だ」と強調した。

Snowflakeも年次イベント「Snowflake Summit」で、AIが企業文脈を理解するためのプラットフォーム戦略を前面に打ち出した。データ保存・分析基盤にとどまらず、企業がAIエージェントを利用する入口としての役割まで広げる方針を明確にし、関連サービスを相次ぎ披露した。

Adobeは「Adobe GenStudio」全体を対象とした大型アップデートを実施した。中核となる「Adobe Brand Intelligence」は、ブランドガイドラインのような静的資料だけでなく、レビューのフィードバックや承認・却下の履歴といった定性的データも継続的に学習し、AIエージェントがブランドアイデンティティに沿ったコンテンツを自動生成できるよう支援する。

SAPも5月に米オーランドで開いた「Sapphire 2026」で、AI競争の焦点はモデルそのものではなく、企業文脈とガバナンスにあるとの考え方を示した。SAPのCTO、フィリップ・ヘルチヒ氏は「LLMは差別化要因ではない。OpenAIでもAnthropicでもよい。重要なのは、エージェントが正しいビジネスエンティティを理解し、適切なデータにアクセスし、実際の企業データで検証できるかどうかだ」と述べた。

一方、AIを取り巻く周辺領域でも動きが広がっている。AIコストやセキュリティへの懸念が高まるなか、AIを動かすハードウェアとしてPCの存在感も増している。半導体各社はPC向けAIチップへの投資を拡大しており、PCメーカーの対応も活発化。PC上で動作するAIエージェントも相次いで登場している。

個別企業の動向も目立つ。MicrosoftはOpenAIやAnthropicへの依存を減らし、自社AIモデル戦略を本格化させている。Buildでは、初の推論モデル「MAI-Thinking-1」に加え、画像、音声、文字起こし、コーディング向けなど計6種類のモデルを公開した。

同社はこのほか、Windows 11ネイティブアプリ開発を支援するAIエージェントツール群も発表した。AIエージェントとアプリケーションの開発・運用基盤も更新し、AIエージェント向けOS「Project Solara」も公開した。さらに、AIエージェント「Scout」をMicrosoft 365上で披露している。

OpenAIは「Codex」に職務別プラグイン6種と新機能を追加し、法人顧客の開拓を進める。今回のアップデートは、開発者中心だったCodexの対象業務をオフィスワーク全般へ広げることに重点を置いたものだ。加えて、自社AIを複数のチップ上で動作させるための内部ソフトウェアを外部公開する案も検討している。

Anthropicは、Claude製品の販売拡大に向けたサードパーティーパートナープログラム「Claude Partner Network」を正式に立ち上げた。一方で、主要AI研究所に対して開発速度を落とすよう求める立場も示している。同社はブログで、AIシステムが人間の介入なしに自己改善する「再帰的自己改善」の段階に近づいていると警告し、開発ペースを抑えることが社会全体の利益になると主張した。

Appleは、より高度でパーソナライズされた対話体験の実現を目指し、次世代Siri音声AIアシスタントを9月に投入すると報じられている。

NVIDIAは、エンタープライズ向け予測AIソフトを手掛けるスタートアップのKumo AIを4億ドル超で買収した。これにより、自社ハードウェアに最適化したAIモデルのポートフォリオを拡充するとともに、企業がNVIDIAのモデルを追加学習・カスタマイズするための基盤も広げた。

Metaは、WhatsApp、Messenger、Instagramでの顧客対応や商品推薦、予約処理を自動化する「Meta Business Agent」を公開した。メッセージング基盤とAIエージェントを結び付け、企業向け活用を広げる狙いだ。

企業のAI導入事例も増えている。Samsung ElectronicsのMX事業部でデジタルコマースチーム長を務めるソ・ジョンア副社長は、米サンフランシスコで開かれた「Snowflake Summit 2026」の基調講演に登壇し、Snowflake上級副社長のクリスティアン・クライナーマン氏との対談で、自社のAX戦略と導入経験を紹介した。

Worksphereが運営する採用管理ソリューション「NineHire」は、自社ソリューションと外部AIツールを接続する「MCP(Model Context Protocol)連動」機能を公開した。MegazoneCloudは、GolfzonCommerceのオンラインショッピングモール向けに、ゴルフ用品の推薦機能を備えたAIショッピングエージェントを構築した。NC AIは、Hanwha Oceanのビジョン認識ベースの溶接専用モデルと、協働ロボットベースの自律溶接モデルの開発案件を受注し、協業体制を立ち上げた。

Red Hatは、エンタープライズ環境でAIエージェントの運用を支援する「Red Hat Ansible Automation Platform」を更新した。AIエージェントを実運用へ載せるためのオペレーション層を強化する狙いとみられる。

AIエージェントの拡大は、インターネット上のトラフィック構成にも影響を与え始めている。Cloudflareによると、AIエージェント由来のボットトラフィックはWeb全体の57.4%を占め、人間によるトラフィックの42.6%を上回った。AIエージェントが生成するWebトラフィックが人間を超えたとの見方も出ている。

キーワード

#人工知能 #AIエージェント #企業文脈 #エージェンティックOS #Microsoft #Snowflake #Adobe #SAP #OpenAI #Anthropic #NVIDIA #Meta #Red Hat #Cloudflare
Copyright © DigitalToday. All rights reserved. Unauthorized reproduction and redistribution are prohibited.