韓国の科学技術情報通信部で、役職名を使わず名前に「さん」を付けて呼び合う文化が省内外に広がっている。バ・キョンフン副首相兼長官の就任を機に導入された取り組みで、呼称の見直しにとどまらず、会議資料の簡素化や会議運営の改善など、働き方改革にも波及している。
「本当に『キョンフンさん』の方が『副首相』より広く使われている。今では『副首相』と呼ぶ方がむしろぎこちないくらいだ。もちろん、キョンフンさんも私たちを名前で呼んでいる」
科学技術情報通信部のある書記官は、こうした変化をこう語る。
同部は昨年、バ副首相の就任を機に、役職名を付けず名前の後に「さん」を付ける呼称を導入した。序列意識が根強い公務員組織では異例の試みと受け止められている。
同部関係者によると、バ副首相は就任直後から、権威的な呼び方よりも、自由に意見を出しやすい雰囲気づくりを重視してきた。当初は戸惑いもあったが、時間の経過とともに自然に定着し、バ副首相を省内で「キョンフンさん」と呼ぶ光景も日常になったという。
バ副首相自身も、職員を役職ではなく名前に「さん」を付けて呼んでいる。
こうした組織運営は、バ副首相の経歴とも無関係ではない。1976年生まれのバ副首相は、LG AI Researchの院長を務めた民間出身で、形式より効率を重視する運営手法を省内にも取り入れている。
その流れは次官級にも及ぶ。ク・ヒョクチェ第1次官は「ジャリョンさん」、リュ・ジェミョン第2次官は「ソルジョンさん」と呼ばれているという。
ク次官の「ジャリョン」は、『三国志』の名将・趙子竜に由来するとされる。リュ次官の「ソルジョン」は、「率先」の「ソル」と「正しい」の「ジョン」を組み合わせた別称だという。
こうしたフラットな呼称文化は、省内にとどまらず、外部との懇談会や会議にも広がっている。バ副首相は、政策の現場で民間の専門家や研究者と会う際にも、形式的な肩書より自由な議論ができる場づくりを重視しているという。
代表例が「科学技術・人工知能(AI)未来戦略会議」だ。バ副首相は出席者に対し、役職ではなく互いを「さん」で呼び合おうと自ら提案したとされる。民間の専門家や研究者が同席する場で肩書を外し、対等な立場で意見を交わしてもらう狙いがある。
組織文化の見直しは、働き方の改善にもつながっている。科学技術情報通信部は会議資料をできるだけ簡潔にし、月曜日午前の会議も可能な限り午後に移している。月曜午前の会議準備のために週末対応を強いられる慣行を減らす狙いだ。
同部は、称賛と励ましを組織文化として広げる取り組みにも乗り出している。2月からは、業務への姿勢や責任感に優れた職員を選ぶ「称賛ドミノ」を実施している。
バ副首相は「称賛が日常的な組織文化として定着し、自発的な協業と積極的な仕事への姿勢につながるようにしたい」とした上で、「称賛を媒介に、尊重と協業が根付く組織文化を継続的に広げていく」と述べた。
バ副首相は来月17日に就任1周年を迎える。イ・ジェミョン政権の初代科学技術副首相として、AI3大強国への飛躍、国家研究開発体制の改編、先端戦略技術の確保、サイバーセキュリティ対応といった課題を同時並行で進めている。
同部関係者は「呼称が変わっただけで組織が一気に変わるわけではないが、少なくとも互いの接し方や業務効率を見直すきっかけにはなっている」と説明した。その上で「職員が自由に意見を出し、責任感を持って働ける雰囲気をつくり続けることが重要だ」と話している。