写真=SK hynix

人工知能(AI)向けトークン需要の拡大が、DRAMや高帯域幅メモリー(HBM)の需給を左右する重要な前提になっている。COMPUTEX 2026では、2030年までにトークン需要が40倍に膨らむとの見方が相次いだ。一方で、その需要が実体経済の産出としてどこまで定着しているかは統計で確認しにくく、メモリー各社の発注見通しにはなお不透明感が残る。

こうした強気の需要見通しは、「AI Together」をテーマに過去最大規模で開かれたCOMPUTEXの会場で鮮明になった。Qualcommの最高経営責任者(CEO)、クリスティアノ・アモン氏は1日(現地時間)、台北での基調講演で、世界のAIトークン消費が現在は10秒当たり317億個の規模にあり、2030年には1兆2700億個へと約40倍に増えるとの見通しを示した。

アモン氏はその根拠として、対話型AIは1タスク当たり約1万トークンを使うのに対し、推論型AIでは10万トークン、自律的に作業するエージェンティックAIでは約100万トークンを消費すると説明した。エージェントが人間の速度ではなく機械の速度で常時稼働するようになれば、トークン需要は構造的に膨らむという見立てだ。

供給側も同様の見方を示している。SKグループのチェ・テウォン会長は2日、COMPUTEX会場で「メモリーのボトルネックは2030年まで続く見通しだ」と述べ、5年以内にSK hynixのウエハー生産能力を2倍に引き上げる方針を明らかにした。

チェ会長は「より多くのキャッシュが必要になるほど、必要なメモリーも増える。世界の企業がAIデータセンターに大規模投資を進め、AI PCも立ち上がりつつあり、メモリー需要は一段と増えている」と説明した。新工場の建設には最低でも3年、グリーンフィールドでは5年以上かかるとし、供給制約の強さにも言及した。

Micronの最高事業責任者(CBO)、スミット・サダナ氏も、AIのコンテキスト長が年率30倍で伸びており、サーバー1台当たりのメモリー搭載量は過去3年で2倍になったと説明した。AIの普及に伴い、システム構成がよりメモリー中心に移行しているとの認識を示した格好だ。

もっとも、こうした需要見通しを裏付ける統計は乏しい。AIトークン使用の37%がコンピュータ・数学分野に集中している一方、米国のソフトウェア投資はGDP統計上、従来トレンドから大きく乖離していないとの分析もある。

トークンの3分の1超がコード作成や数学的演算に使われているのであれば、ソフトウェア生産や投資の統計のどこかに痕跡が表れても不思議ではない。だが、マクロ指標では目立った変化を確認しにくい。投入を示すトークン消費量と、産出を示す経済統計が異なる方向を示している構図だ。

コストと産出の非対称性も大きい。データセンターの電力使用量はワット時、設備投資はドルで把握でき、投入コストは比較的明確に測定できる。一方で、AIが生み出す価値の相当部分は統計に表れにくいとされる。

企業内部の生産性改善や、無料サービスとして提供される価値は市場取引を伴わず、GDPに反映されにくいためだ。このため、足元のトークン需要が構造的な新規需要なのか、それとも導入実験に伴う一時的な利用なのかを見極めにくい。投入側の指標だけが先行して見えるなかで、増設投資が進んでいる状況といえる。

実需か一過性かという見極めは、メモリー業界の投資判断に直結する。トークン需要が新規需要として定着するなら、足元の増産競争には合理性がある。逆に一時利用の比率が大きければ、発注が急減速する局面が突然訪れる可能性もある。需要そのものが続いたとしても、効率化技術によって需要構成が変わる余地はある。

iM Securitiesによると、GoogleがGemini 3.0に一部適用している圧縮技術「TurboQuant」は、短期記憶ストレージ(KVキャッシュ)の容量を6倍超削減し、同じHBM容量で6倍多いユーザーを処理できるという。IntelがCOMPUTEXで、HBMを使わずLPDDR5X 480GBを搭載したデータセンターGPU「Crescent Island」を公開したことも、同様の迂回戦略として受け止められている。

もっとも、足元の発注シグナルは強い。NVIDIAのCEO、ジェンスン・フアン氏は基調講演で次世代プラットフォーム「Vera Rubin」のサプライチェーンを紹介し、HBM4の供給企業としてSK hynixに言及した。Samsung Electronicsも、半導体部門の最高技術責任者(CTO)社長であるソン・ジェヒョク氏が第8世代HBMの試作品を初公開し、対応を急いだ。

ただ、こうした発注はあくまで顧客企業の需要予測に基づくものであり、最終需要の持続性とは切り分けてみる必要がある。焦点は、トークン需要の持続性が統計上どの時点で確認できるかに移りつつある。産出を測る枠組みが整うまでは、供給企業の強気な見通しとマクロ指標との乖離が続く公算が大きく、その乖離自体がメモリー市況を巡る論争の火種になりそうだ。

その間、Samsung ElectronicsとSK hynixの発注見通しは、顧客企業の予測に左右される構図が続くとみられる。業界関係者は「トークン需要が経済的な産出として立証される時期が、メモリー市況の分岐点になる」と話している。

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