ヒューマノイドロボットの華やかなデモ動画が相次いで拡散している。だが、そうした映像だけで実力を判断するのは危うい――。専門家の間では、一度きりの成功例よりも、実環境で同じ作業を安定して繰り返せる再現性や、環境が変わっても対応できる汎用性こそ重視すべきだとの見方が強い。
米ITメディアArs Technicaが6月4日(現地時間)に報じたところによると、ロボット業界や学界の関係者は、ネットで話題になる映像と実際の現場で通用する性能の間には、なお大きな隔たりがあるとみている。
焦点となるのは、一度や二度うまくいったデモではない。異なる環境でも同じ作業を安定して繰り返せるかどうかだ。アクロバティックな動きや家事の様子を前面に打ち出す企業は多いが、それと同じ水準の性能を産業現場や家庭で再現できるかは、別途検証が必要だという。
Agility Robotics共同創業者で、オレゴン州立大学でロボット工学を研究するジョナサン・ハースト氏は、ヒューマノイドは過度な期待を集めやすいと指摘する。人が踊るように見えるロボットを目にすると、そのロボットは人間のように別の仕事もこなせると受け取られがちだが、「それは事実ではない」と述べた。こうした認識を資金調達に生かすスタートアップもあるという。
カリフォルニア大学バークレー校の計算機科学者で、Physical Intelligence共同創業者のサージ・レヴィン氏も、ロボットの本当の難しさは「汎用性」にあると説明する。たとえワインを1杯注げても、どのボトルでも、どのグラスでも、どの環境でも同じ作業をこなせるかは別問題だ。同氏は「1回のデモでバク宙を決めるより、はるかに難しい」と語った。
このため、ロボットの性能評価では、人目を引く映像よりも、実環境での定量的かつ大規模な検証が重要だとの見方が出ている。レヴィン氏は、デモで見せられる内容とロボットの実力には常に差があると指摘した。
デモ動画を見る際にまず確認すべきなのは、自律性の有無だ。パデュー大学の計算機科学博士課程研究員で、米陸軍開発司令部陸軍研究所の研究補助員も務めるディパム・パテル氏は、多くのデモが依然として遠隔操作に頼っていると説明する。論文や企業の説明で完全自律と明記されていないのであれば、慎重に見るべきだという。同氏は「完全自律だと明確に示されていないなら、強い疑いを持って見るべきだ」と述べた。
あわせて、デモを行った場所が初めての未知の環境なのか、それとも学習済みの訓練環境なのかも重要な判断材料となる。初めて遭遇した環境で課題をこなしたのであれば、汎用性や自律性の裏付けとしての説得力は増す。一方、慣れた空間での反復であれば、評価は変わってくる。
再生速度も見極めのポイントだ。パテル氏は、安全面などの理由から、ロボットは通常かなりゆっくり動くと指摘する。企業のなかには、デモ動画が2倍速や4倍速であると明示する例もある。この場合、同じ作業でも人間より2倍、あるいは4倍の時間を要する可能性がある。画面上の機敏さが、そのまま実作業の速さを意味するわけではない。
また、デモ動画は目的や透明性にも差がある。ソーシャルメディアでの拡散を狙ったパフォーマンス色の強い映像もあれば、顧客や投資家の獲得を意識した宣伝色の濃いものもある。その一方で、学習過程や試行錯誤もあわせて示し、限界まで含めて公開する映像もある。
結局のところ、ネットで注目を集めるヒューマノイドの映像は、全体像の一部を切り取ったものにすぎない。映像の完成度が高く、発信元が信頼できそうに見えても、それだけで実力を断定するのは難しい。業界が本当に見るべき指標は、拡散されやすい動画の見栄えではなく、実環境での自律性、汎用性、速度、再現性、そしてそれを裏付ける検証の規模だという。