Ethereum創設者のヴィタリック・ブテリン氏は、中国発のAIモデル「DeepSeek V4」を、Ethereumのプライバシー強化を支える中核技術の1つとして位置付けた。AIが暗号資産ウォレットやブロックチェーンとのやり取りを直接担う局面が増える中、中央集権型AIへの依存ではセキュリティとプライバシーの両立が難しいとの認識を示した。
ブロックチェーンメディアのCryptopolitanによると、ブテリン氏は28日、ローカルAIモデルとEthereumのアクセス層を組み合わせる構想を公表した。DeepSeek V4をローカルで動かせる環境が、秘匿性の高いブロックチェーン利用の実現に重要だと説明したという。
ブテリン氏は3月の「ETH Mumbai」カンファレンスでも、「CROPS AI」の概念を紹介していた。これは、検閲耐性、オープンソース、プライバシー、セキュリティを備えたAIを指す。同氏は当時、AIが今後、暗号資産エコシステムにおける新たなセキュリティリスクになり得ると警鐘を鳴らしていた。
特に問題視したのは、ローカルAIをうたっていても、必ずしも安全とは限らない点だ。オープンソースのAIフレームワークやローカルエージェント環境は広がっているものの、処理の難しい作業では最終的にOpenAIやAnthropicのAPIを呼び出すケースが多いという。見かけ上はローカルAIでも、実際には中央集権的なサーバに依存している場合があるという指摘だ。
こうした文脈の中で、ブテリン氏は現実的な代替案としてDeepSeek V4に言及した。2ビット量子化版のDeepSeek V4は、およそ90GBのメモリ環境で動作可能で、ローカルで秘匿的に取引を処理する仕組みの実装に重要な役割を果たし得ると評価した。
同氏が描くのは、ローカルAIとEthereumのゼロ知識証明(ZK)を組み合わせる方式だ。DeepSeek V4のようなローカルモデルでEthereumのデータを参照する際、メタデータやIPアドレス、ウォレット残高などを中央集権型のRPCプロバイダーにさらさず、ブロックチェーンとやり取りできるとしている。
ブテリン氏は、「リモートの大規模言語モデル(LLM)に有料コールを送るゼロ知識方式は、EthereumにおけるプライベートRPC参照の課題解決にも応用できる」と述べた。さらに、秘匿性の高いローカルLLM呼び出しとZKベースの決済を組み合わせれば、ブロックチェーンとの相互作用をオフチェーンで秘匿したまま処理でき、個々の取引の関連性を隠すのにも役立つと付け加えた。
そのうえで同氏は、DeepSeek V4について「この構想が数年先の話ではなく、現在のハードウェアでも実現可能であることを示した事例だ」と強調した。一方で、高いハードウェア要件が必要だとも説明している。Macでは96GB〜128GB程度のユニファイドメモリ、PCでは同程度のVRAMが必要だとした。
今後の改善点としては、AMD環境向けのDeepSeek V4フラッシュ最適化パッチを挙げた。AIと暗号資産インフラの結び付きは、今後さらに強まるとの見方も示している。
また、この流れを「サイファーパンクの復活」になぞらえた。AIがユーザーのデジタル上の受託者として機能するようになれば、決済情報とユーザーの身元を切り離し、リモートAIによる計算さえ匿名化できるという。一方で、現在のオープンソースAIエコシステムは性能重視で発展しており、プライバシーの論点が十分に考慮されていないと批判した。
ブテリン氏は今後、Ethereumエコシステムに特化したAIモデルの必要性が一段と高まるとの見方も示した。スマートコントラクトやプロトコルコードの安全性を高めるには、汎用AIではなくEthereum環境に最適化されたモデルが必要だという。こうした流れを受け、Ethereumのプライバシーを巡る議論は、ウォレットやRPCインフラにとどまらず、ローカルAIの実行環境とZKベースのアクセス層設計へと広がりつつある。