SpaceXの6月12日のNasdaq上場を控え、暗号資産市場では同社を対象としたプレIPO合成商品の値動きに注目が集まっている。とりわけ、Hyperliquidで取引される合成永久先物「SPCX-USDC」を巡っては裁定取引が活発化しており、市場の関心は上場後の価格収れんの速さ、取引所に対する規制リスク、さらにSpaceXのビットコイン保有が需給に与える影響の3点に集約される。
ブロックチェーン関連メディアのBeInCryptoによると、SPCX-USDCはすでにSpaceXの企業価値を2兆ドル規模とみる水準で取引されている。
一方、SpaceXが目標とするIPO条件は、企業価値1兆7500億ドル、調達額750億ドルとされる。市場では、上場後に合成先物の価格が実際の株価へどの程度の速さで収れんするかが最大の焦点になっている。
SPCX-USDCは5月18日に基準価格150ドルで取引を開始し、その後216ドルまで上昇した。足元では203ドル前後で推移しており、ファンディングレートも上場以来高水準のプラス圏を維持している。
市場では、上場と同時に裁定取引を狙う投資家が合成先物を売り、現物株を買う動きに出る可能性があるとの見方が出ている。ある市場参加者は、HyperliquidのSPCX永久先物が216ドルで取引される一方、Nasdaqの想定公募価格が525ドルと大きく乖離している点について、「約60%の差は、裁定メカニズムが十分に機能していないことを示している」と指摘した。
同氏はさらに、「CBRS(Cerebras Systems)の事例は、上場前最後の72時間で価格が急速に収れんする可能性を示唆している」とも述べた。
市場では、想定される収れん幅は100〜250ベーシスポイント(bp)とみられており、価格調整の大半は6月12日の取引開始から6時間以内に表れる可能性が高いとされる。RedditやServiceTitanのグレーマーケットでも、価格の再調整は4〜6時間で進んだという。
取引所を巡る規制リスクも無視できない。Binance、OKX、Bitget、BingX、Hyperliquidなどが提供するプレIPO合成商品は、米証券法上、これまでに例の少ない商品設計とみられている。
SpaceXが実際に上場すれば正式な株式取引が始まるため、こうした合成商品の価格発見機能や取引需要が薄れる可能性がある。米証券取引委員会(SEC)と米商品先物取引委員会(CFTC)は現時点で公式調査に着手していないが、当局が商品設計の精査に乗り出した場合、中小取引所ほど負担が重くなるとの見方がある。
BingXとOKXは、Binanceに比べると規制対応の体制規模が小さいとされる。Hyperliquidはオンチェーン型の仕組みを採るため、直接的な規制エクスポージャーは相対的に限定的とみられている。一方、暗号資産取引所BTCCのSpaceX先物や一部中堅取引所の商品は、上場後に規制当局の検討が本格化した場合、対応余力が不足する可能性がある。
このため市場では、今後90日以内に少なくとも1社がSPCX関連取引の制限、あるいは上場廃止に踏み切る可能性があるとの観測も出ている。
もう1つの変数が、SpaceXのビットコイン保有だ。SpaceXは有価証券届出書S-1で、1万8712BTCを保有していると開示した。
取得原価は6億6100万ドル。足元のビットコイン価格7万5690ドルを当てはめると、評価額は約14億2000万ドルとなる。保有量では約1万1509BTCのTeslaを上回る。
市場ではこれを、イーロン・マスク氏の個人的な選好というより、ビットコイン連動の投資マネーを呼び込む意図を示すシグナルと受け止めている。つまり、SPCXの買い手は意図せずしてビットコインへのエクスポージャーも持つ構図になる。
こうした動きは、SpaceXにとどまらず他の大型未上場企業のIPO戦略にも影響を与える可能性がある。Anthropicの未上場市場での企業価値はすでに1兆ドルを超えたともされ、OpenAIも評価額8520億ドルを基準に上場書類を準備中と伝えられている。
両社もビットコイン保有を開示していることから、暗号資産関連の投資家の間では5〜8%程度のプレミアムが見込めるとの見方も示されている。
今後の日程もタイトだ。SpaceXは6月4日に投資家向け説明会を始め、6月11日に公募価格を決定した後、6月12日に初値形成を迎える予定。市場では、上場当日の最初の1時間におけるSPCXの値動きが、裁定取引の成否を左右する重要局面になるとみられている。
6時間以内に価格収れんが進めば、暗号資産市場におけるプレIPO合成商品の有効性を示す追い風となる可能性がある。逆に、価格乖離が大きく残る、あるいは取引所に対する規制措置が打ち出されれば、市場構造そのものが揺らぐおそれもある。
市場では今回の上場を、暗号資産ベースのプレIPO合成商品の実効性を測る初の大型テストと位置づける見方が強い。SPCXが実株価へ速やかに収れんすれば価格発見機能への評価が高まる一方、乖離の長期化や規制リスクの顕在化が起きれば、関連市場の信認を損ないかねない。
SpaceXのビットコイン保有という要素も加わり、上場直後の実株とSPCXの値動きは、暗号資産市場にとっても重要な観測ポイントになりそうだ。