電動化やソフトウェア定義車両(SDV)、自動運転、生成AIの普及を受け、自動車業界では開発の進め方そのものを見直す動きが広がっている。個別ツールのデジタル化にとどまらず、開発・製造・サプライチェーンを単一基盤でつなぐ統合プラットフォームの導入が進んでいる。
車両開発は、特定地域の研究所や単一部門だけで完結できる段階ではなくなった。グローバルな開発組織や外部パートナー、生産現場、サプライチェーンを同時につなぎ、同じデータを基に意思決定できる環境を整える取り組みが増えている。
中国のEVメーカーNIOもその一例だ。2014年設立のNIOは、創業当初からグローバル市場を視野に事業を展開してきた。
Dassault Systemesによると、NIOでは当初、中国、米国、欧州に分散したエンジニアリングチームが異なるツールや書類ベースの手続きに依存していた。このため、協業やデータ共有に課題があり、北米チームが中国側の進捗をリアルタイムで把握するのも容易ではなかったという。
こうした課題に対し、NIOはプラットフォームの統合に踏み切った。Dassault Systemesの「3DEXPERIENCE」プラットフォームと産業向けソリューション「Electromobility Accelerator」を基盤に、4カ月で移行を完了。PLM(製品ライフサイクル管理)ソリューション「ENOVIA」を通じ、拠点を問わず車両全体のデータにリアルタイムでアクセスできる環境を整えた。
エンジニアはバーチャルツイン環境で車両の3Dモックアップを随時確認し、断面確認や測定、デジタルモックアップ検査を実施できるようになった。車両全体データの読み込み時間も、従来の3時間超から15分へ短縮した。
製造面では、デジタル製造ソフト「DELMIA」を活用して工程をデジタル上で計画・検証し、工場パートナーとともにグローバル生産の状況や品質をリアルタイムで可視化できる体制も構築した。
統合プラットフォームは開発スピードの向上にもつながった。NIOはフラッグシップの電動7人乗りSUV「ES8」を、コンセプト策定から市場投入まで3年で完了した。従来の自動車メーカーが新車開発に4〜5年以上を要するケースと比べると、速いペースだとされる。
Jaguar Land Rover(JLR)でも、分断されたIT環境の見直しに取り組んだ。JLRはFord傘下時代から使われていた自動車向けソフトウェア群を引き継いだ結果、設計データが複数システムに分散し、チーム間のデータ共有や協業でボトルネックが生じていた。
これに対し、JLRはDassault Systemesとともに「i-PLM」と呼ぶ変革プログラムを推進した。全社の設計データを統合し、バーチャルツインを基盤とする協業環境を整備するもので、単なるシステム刷新ではなく、製品開発組織が同じデータを基に協業できるよう業務プロセスの再設計に重点を置いた。
JLRによると、i-PLMへの移行後、一部の製品開発業務では最大40%の工数削減効果があった。レガシーIT環境を整理し、設計、検証、協業を統合デジタルプラットフォーム上で運用することが、開発生産性の向上に直結したとしている。
Dongfeng Automobile Corporation(DFAC)も、デジタル研究開発プラットフォームを通じて開発プロセスの改善を進めた。
DFACは、新型バンを3DEXPERIENCEプラットフォーム上で、新型トラックを従来方式で並行して開発し、効果を比較した。これは、研究開発力の高度化を目的とした新たな研究開発プラットフォーム導入計画の一環だった。
同社は3DEXPERIENCE上で「CATIA」と「Global Modular Architecture Solution」を活用し、バーチャルツイン基盤でバン開発を推進した。その結果、従来方式に比べて設計プロセスの効率は30%向上し、設計上の問題は70%減少したという。
DFACは、単一の統合環境で製品開発ライフサイクル全体を管理することで、部門間のデータ分断や反復的なエラーを抑えられたと説明している。
業界では、電動化とSDVへの移行が進むほど、車両開発の複雑性は一段と高まるとの見方が強い。求められているのは、ツールのデジタル化にとどまらず、開発の進め方自体を再設計するDXだ。
Dassault Systemesは「バッテリー、ソフトウェア、電装、熱管理、製造工程、サプライチェーンを同時に考慮し、設計変更がシステム全体に及ぼす影響を迅速に検証する必要がある。データが部門ごとに分断され、各地域組織が異なるシステムに依存すれば、開発スピードも品質も制約される。統合プラットフォーム上でバーチャルツインとリアルタイム協業環境を活用できれば、複雑性を制御しながら市場変化により速く対応できる」としている。