日本企業の終身雇用型の経営構造が、AIなど変化の速い産業では重荷になり得るとの見方が示されている。写真=Shutterstock

日本企業に見られる幅広い事業多角化は、終身雇用と利益の再投資を軸とする独特の経営構造の帰結であり、その仕組みがAI(人工知能)やEV(電気自動車)といった変化の速い産業では弱みになり得る――。そんな分析を、経済・技術分野の筆者デイビッド・オックスが示した。

GIGAZINEが25日付で紹介したところによると、オックスは日本企業が複数の事業を抱える背景を、企業統治や雇用慣行、資本構造の面から読み解いた。

オックスは、日本企業の多角化は他国のコングロマリットとは性格が異なると指摘する。インドの大企業グループは比較的単純な産業に集中する例が多く、ドイツでも事業の広がりはSiemensのような一部の大手複合企業に限られるとした。

また、韓国の財閥も多角化を進めてきたが、政府との近い関係のもとで成長した例が多く、一般企業まで幅広く事業を広げる日本とは様相が異なると説明した。

そのうえで、日本企業の多角化を支える主因として、日本型の雇用・資本構造を挙げた。成果連動色の強い米企業に比べ、日本企業は年功序列の色彩がなお強いという。

新卒を一括採用し、定年まで雇用を維持する終身雇用を前提としてきたほか、経営が悪化しても解雇ではなく配置転換やグループ会社への転籍で対応する傾向が強いとした。こうした仕組みは、勤続年数を軸とする報酬体系によって支えられているという。

外部からの圧力が相対的に弱い点も特徴として挙げた。企業別労組が中心で、取締役会では社内出身者の比重が高い。さらに、企業間の持ち合いとメインバンク中心の資金調達が重なり、株主還元を求める圧力も比較的弱くなると分析した。

その結果、利益は株主に厚く配分されるよりも、事業への再投資に回りやすいとみる。

オックスは、こうした日本型の企業を「J型企業」と位置付けた。終身雇用、個人業績に強く連動した報酬体系の弱さ、外部資金の活用に慎重な姿勢が特徴だとする。

これに対し、株主利益と事業の専門化を重視する欧米企業は「H型企業」に分類した。

両者の違いは現場の運営にも表れるという。H型企業は管理職や上層部が生産ラインの課題を主導して解決する上意下達型に近いのに対し、J型企業は現場の従業員が共同で課題に対応する現場主導型に近いとした。

このためJ型企業では、従業員は特定の職務に閉じず、幅広い業務への理解が求められる。教育や配置転換も不可欠になるという。

オックスは、こうした仕組み自体が多角化を促すと論じる。「従業員に終身雇用を約束するなら、今の仕事が意味を失った時にも、新たな仕事を社内に生み出さなければならない」と指摘した。

さらに、「収益性を過度に優先せず、汎用性の高い人材を多く抱える企業にとって、新規事業に利益を再投資するのは合理的だ」との見方を示した。事業ポートフォリオを広げれば、企業の存続期間を延ばし、余剰人員を活用し続けやすくなるためだという。

人員を大きく減らさずに企業を維持するには、継続的な事業拡張が避けにくいというのが、オックスの見立てだ。

もっとも、この構造の評価は業種によって分かれる。自動車、工作機械、産業用ロボット、光学、精密素材など、漸進的な改善の積み重ねが競争力を左右する分野では、J型企業の強みが生きるとした。

需要が比較的安定し、現場起点の改善が競争力に直結しやすいためだという。

一方で、ソフトウェア、インターネットプラットフォーム、AI、EVのように市場変化が速く、トップダウンでの戦略判断が求められる分野では、H型企業のほうが有利だと分析した。日本企業が一部の製造業で強い存在感を保つ一方、他分野で存在感を示しにくい背景には、こうした構造的な弱点があると結論付けた。

この見方には異論もある。日本企業は実際にはそれほど水平的ではないとの指摘があり、特にソフトウェア業界では、年功序列や承認・報告の手続きが重く、開発者が上層部の決裁プロセスに多くの時間を割いているとの批判もある。

今回の議論は、日本企業の多角化が単なる経営判断の好みではなく、雇用、資本、組織運営が絡み合って生まれた構造的な結果であることを示している。同時に、その構造は精密製造では強みとなり得る一方、AIやEVのように迅速な選択と集中が問われる産業では制約にもなり得ることを浮き彫りにした。

キーワード

#AI #EV #終身雇用 #年功序列 #多角化 #コングロマリット
Copyright © DigitalToday. All rights reserved. Unauthorized reproduction and redistribution are prohibited.