金融テクノロジー企業のFISは、Anthropicと共同で、マネーロンダリング対策(AML)の調査時間を数時間から数分に短縮する金融犯罪対策向けAIエージェントを開発する。Finextraが5日(現地時間)に伝えた。
新たなAIエージェントは、銀行の基幹システムから必要な証跡を自動で収集し、取引内容を既知のパターンと照合して高リスク案件を優先的に特定する。調査担当者は、その結果を基に案件の確認や判断を進めることになる。
狙いは、金融機関で繰り返し発生するAML業務の自動化だ。これまで担当者が複数のシステムを横断して行っていた資料収集や整理の手間を減らし、レビューが必要な案件をより迅速に見極められるようにする。
単なる業務支援ツールにとどまらず、実際の調査フローの中で証跡収集とリスク評価を一体的に担う点が特徴という。
初期導入先には、カナダのモントリオール銀行(BMO)とAmalgamated Bankが含まれる。両行が先行して導入し、FISは2026年下期に提供対象を広げる計画だ。
これにより、この取り組みは概念実証の段階を超え、実際の銀行業務に適用するフェーズに入りつつある。
開発体制も特徴的だ。Anthropicの応用AIチームと導入支援エンジニアがFISに加わり、AIエージェントを共同で設計している。FISはこの過程で技術と運用ノウハウの移転を受け、今後は追加のエージェントを自社で構築・拡張できる体制を整える方針だ。
役割分担も明確にした。FISはデータプラットフォーム、ガバナンス層、導入基盤、顧客対応を含む基盤領域を担い、AnthropicのClaudeは推論機能を担う。金融機関は既存システムとデータ統制の枠組みを維持したままAIを活用し、モデルは意思決定の支援に集中する構造となる。
FISの最高経営責任者(CEO)兼社長のステファニー・フェリス氏は、銀行が求めているのは「支援するAI」ではなく「行動するAI」だと説明した。FISが顧客データ管理とAIエージェントのガバナンスを担い、顧客や資金に関わる意思決定を支えるAIの信頼できる提供者になることが将来像だとした。
同氏はまた、Claudeが内部の推論エンジンとして機能しており、今回の金融犯罪対策向けAIエージェントは、この枠組みを金融機関に提供する最初の事例になり得ると強調した。
さらに、将来の銀行は「エージェント優先」の戦略を採用するようになるとの見方も示した。今回のプロジェクトを「銀行業界の新時代」と位置付け、FISは今回の協業を起点に、自社基盤上で追加のAIエージェントを独自に開発・拡張していく方向性も視野に入れている。
今回の発表は、金融機関のAI活用が問い合わせ対応支援や文書要約といった用途にとどまらず、コンプライアンス対応やリスク検知など中核業務へ広がりつつあることを示している。FISがデータ、ガバナンス、導入基盤を担い、Anthropicのモデルを組み合わせる構成を採ったことで、焦点がモデル性能そのものよりも、統制可能な運用体制の構築へ移りつつあることも浮き彫りになった。