写真=Ethereum Foundationでエコシステム統括を務めるジェームズ・スミス氏(同氏のXアカウントより)

Stripeが、ステーブルコイン決済と独自ブロックチェーン「Tempo」を軸に暗号資産分野での布石を強めている。もっとも、同社が目指すのは暗号資産を前面に押し出すことではない。利用者にウォレットやガス代、ブリッジ、チェーンといった概念を意識させず、企業決済インフラの裏側に暗号資産を組み込む構想が鮮明になってきた。

Ethereum Foundationでエコシステム統括を務めるジェームズ・スミス氏は、Stripeの方向性について「暗号資産企業になろうとしているのではなく、暗号資産を“見えなくする”戦略だ」との見方を示した。

スミス氏は最近、X(旧Twitter)への投稿で、「Stripeは暗号資産を企業決済インフラの深部に溶け込ませ、顧客がウォレット、ガス、ブリッジ、チェーンという言葉を一度も使わずに済む世界を目指している。ステーブルコインとブロックチェーンは、あくまで配管のような存在になる」と説明した。

直近18カ月の動きを追うと、その戦略はよりはっきりする。Stripeは2024年10月、ステーブルコインのオーケストレーションを手がけるBridgeを11億ドル(約1650億円)で買収した。2025年6月にはウォレットインフラ企業のPrivyを買収。さらに2026年3月には、企業決済向けブロックチェーン「Tempo」のメインネットを立ち上げた。

加えて、Stripeのステーブルコイン子会社は2026年2月、米通貨監督庁(OCC)から国立信託銀行設立に向けた条件付き承認を取得した。

これらの動きから浮かぶのは、決済基盤の主要レイヤーを自社で押さえる構図だ。清算はTempoが担い、ガス代はステーブルコインで支払う。独自トークンは設けず、共有型のブロックスペースにも依存しない。法人決済に必要な処理速度と手数料の予見性を確保する設計だ。

スミス氏はTempo開発の背景について、「ミームコインブームのさなか、主要ブロックチェーンの一つでBridgeの顧客が決済完了まで12時間超を要し、取引当たり手数料も35倍に跳ね上がった。法人決済を投機的なトラフィックが集中するチェーンに載せることはできない、という結論に至った」と説明した。

ステーブルコインの発行とオーケストレーションはBridgeが担う。Phantom、Klarna、Hyperliquid、MetaMaskはいずれもBridgeを基盤に独自ステーブルコインを発行した。Bridgeは準備金の管理、コンプライアンス対応、発行・償却を手がけ、準備金収益の大部分を発行体に還元するという。

Stripeが重視しているのは、コインそのものではなく、発行・保管・交換・決済・規制対応までを支えるプラットフォームの保有だ。

ウォレット領域ではPrivyが中核を担う。Privyは2025年時点で、プログラム可能なアカウントを1億1000万件保有していた。消費者向けには、Stripeの簡便決済サービス「Link」がある。2億5000万人の消費者が、Link上でステーブルコインを保管できる。

スミス氏は「Metaがフィリピンやコロンビアのクリエイターにステーブルコインで支払う場合、受取人はLinkの中で資金を受け取る。メールでログインして残高を確認するだけで、ウォレットアドレスもチェーンも見えない」と述べた。

この「暗号資産を見せない」という設計は、加盟店と消費者の双方に共通する。加盟店はStripe残高として受け取り、消費者はLink上で残高を確認する、という形になる。

一方、Stripeの既存収益は、VisaやMastercardのカード決済時に発生する手数料を基盤としてきた。同社は加盟店とカードネットワークの間で決済を処理し、その一部を収益化してきた。

だが、Tempo上でステーブルコイン決済が広がれば、カードネットワークを経由しない取引が増える可能性がある。既存の収益源を自ら揺るがしかねない構図だが、それでもStripeは暗号資産戦略を加速させている。

スミス氏によると、Stripeにとって重要なのは、決済手段がカードかステーブルコインかではなく、どちらの場合も最終的にStripeのインフラを通ることだという。

同氏は「AIエージェントがStripeのMPPプロトコルを通じてカードトークンで決済すれば、Stripeは従来通りカード手数料を受け取る。同じエージェントがステーブルコインで支払えば、カードネットワークを介さずTempo上で即時に清算される。それでも加盟店が資金を受け取る場所は結局Stripeの中だ」と説明した。

その上で、「カードからステーブルコインへと決済手段が移っても、その変化はStripeの外で起きるのではなく、Stripeの内部で進む。競合がStripeを置き換えるのではなく、Stripeが自らを置き換える形になる」と指摘した。

さらにスミス氏は、「多くの企業は既存収益を守りながら新技術の普及を待とうとするが、Stripeは逆だ。既存のカード事業を自ら侵食しかねない仕組みを作りつつ、新しい決済フローも最終的にはStripeのシステム内で完結するよう設計している」との見方を示した。

最後に同氏は、「問われているのはStripeが暗号資産ネイティブになるかではない。企業が違いに気付く前に、暗号資産のほうがStripeネイティブになるかどうかだ」と述べた。企業が意識しないまま、暗号資産基盤の決済がStripeの内部で先に標準化されるかが焦点になりそうだ。

キーワード

#Stripe #ステーブルコイン #Tempo #Bridge #Privy #OCC #ウォレット #企業決済
Copyright © DigitalToday. All rights reserved. Unauthorized reproduction and redistribution are prohibited.