韓国大統領府のAI未来企画首席が空席となり、国家AI戦略の今後に関心が集まっている。ハ・ジョンウ前首席の政界転身を受け、政府が掲げる「グローバルAI3強」関連政策の継続性を懸念する声も出ている。後任選びは容易ではないとの見方が強く、当面は実務を担う科学技術情報通信部の役割が一段と重要になりそうだ。
ハ前首席は大統領府を離れ、政界入りを正式表明した。6月3日に行われる釜山・北区甲の国会議員補欠選挙に、共に民主党候補として出馬する。イ・ジェミョン大統領は4月28日、ハ前首席の辞表を受理。翌29日には共に民主党が人材迎え入れを発表し、補欠選への出馬が正式に決まった。
業界では先月から、ハ前首席の去就に注目が集まっていた。国会議員補欠選挙への出馬観測が広がると、国家AI戦略が修正を迫られる可能性も取り沙汰され、多くのIT企業が関わる国家AI事業の先行きを不安視する声が上がっていた。
ハ前首席の離脱を惜しむ見方も少なくない。初代のAI未来企画首席として就任してから1年足らずで大統領府を去ることになるためだ。独自AI基盤モデル(ファウンデーションモデル)プロジェクトや国家AIコンピューティングセンターなど、大型の政府AI事業がなお進行中の段階で政界へ転じるのは早すぎる、との受け止めがある。
クラウド業界の関係者は「業界としては非常に戸惑う決定だ。国家AIエコシステムがようやく立ち上がろうとしている局面で、突然政界に転じるのは残念だ」と話した。
一方で、今回の動きをAI政策推進の延長線上にあるとみる向きもある。「グローバルAI3強」の実現には関連法整備が不可欠で、国会に身を置くことで政策の実行力を高めようとした可能性がある、という見方だ。大統領府の立場だけではAIエコシステム構築に限界があると判断したのではないか、との分析も出ている。
後任人事を巡っては、期待と不安が交錯している。ハ前首席はNaver CloudでAIイノベーションセンター長などを務めた後、大統領府に入った。ソウル大学でコンピュータ工学の博士号を取得し、民間企業に身を置きながらAI研究を続けてきた経歴を持つ。
NaverではAI組織を率い、専門家ネットワークの構築や対外コミュニケーションにも携わってきたとされる。業界では、ハ前首席に匹敵するAIの専門性と政務感覚を併せ持つ後任を見つけるのは容易ではない、との見方が大勢だ。
別の業界関係者は「AI分野では、急速に変化する技術トレンドを見極める力がとりわけ重要だ。民間企業で変化に機敏に対応しながら事業を推進してきた経験は、ハ前首席の大きな強みだった」と語った。
大統領府がハ前首席を起用した背景も、こうした評価と重なる。昨年6月15日、カン・フンシク大統領府秘書室長は任命発表の際、イ大統領が「現場を最もよく知る民間の専門家に権限と責任を託し、AIの国家競争力を速やかに高めるべきだ」と述べたと明らかにしていた。
ハ前首席の出馬決定を受け、科学技術情報通信部の負担も増している。AI未来企画首席が国家AI戦略全体の設計を担う一方、政策の実行を担う主務官庁は科学技術情報通信部だからだ。
同部は現政権で副首相級に格上げされ、科学技術関係閣僚会議を主宰するなど、省庁横断の科学技術政策の調整役を担っている。LG AI研究院の院長出身であるペ・ギョンフン副首相兼科学技術情報通信相は、ハ前首席に劣らないAIの専門家と評価されている。
ペ副首相は今年に入り、イ大統領の中国、シンガポール・フィリピン、ベトナム歴訪に同行し、韓国のAI政策を対外的に発信する役割も担ってきた。
別の業界関係者は「後任の首席が決まるまで、ペ副首相の役割は極めて重要になる」とした上で、「ただ、組織上はAI未来企画首席の役割を完全に代替できるわけではない。後任はできるだけ早く決める必要がある」と指摘した。