個人投資家が生成AIで構築した暗号資産の自動売買ボットを短期間で停止するケースが目立っている。背景にあるのは、大規模言語モデル(LLM)の高額な推論コストだ。売買戦略の設計自体は安価にできても、継続運用に伴うAPI利用料が収益性を大きく損なっているという。
ブロックチェーンメディアのCryptopolitanが29日(現地時間)に報じたところによると、多くの個人トレーダーはカスタムAI取引ボットの運用開始から約2週間以内に停止している。主因は、継続的なAPI呼び出しと推論処理にかかるコスト負担だという。
今回の分析は、OpenClawベースのマネージドホスティング企業Agent37を運営する寄稿者の経験をもとにまとめられた。寄稿者は、自律型AIエージェントの展開事例を数百件見てきた立場から、個人投資家が維持費の高さに直面していると指摘した。
YouTubeやオンラインコミュニティでは、Claudeなどを使って数分でSolana向けの取引ボットを作る方法が急速に広がっている。ただ、実運用では事情が異なるという。
ポイントは、戦略設計のコストと継続実行のコストは別物だという点だ。LLMによってモメンタム指標や売買ルールの作成そのものはほぼ無料に近づいた一方、AIボットを24時間稼働させ、市場データを読み込み、分析し、売買判断を下し続けるには継続的な費用がかかる。
寄稿者はこれを「推論税(inference tax)」と表現した。例えば、5分ごとにチャートと市場センチメントを分析させ、Solanaのスワップを実行すべきか判断する設定では、トークン消費が積み上がっていくという。
多くの利用者はGPT-5.4やClaude Opusといった上位モデルを選ぶが、こうしたモデルは長時間の連続稼働で費用が急増しやすい。寄稿者によると、1日のAPI費用に10ドルをかけても、実際の売買益は2ドル程度にとどまった例もあった。寄稿者は、AIの「知能」に払うコストが取引価値を上回っている状況だと評価した。
寄稿者は、AI暗号資産市場に広がった前提そのものにも問題があると指摘する。単純な売買戦略の実行にも最高性能の汎用AIモデルが必要だと受け止められがちだが、実際にはそうではないという。「Solanaが5%下落したら買う」という戦略に必要なのは天才的なAIではなく、厳格なシステムプロンプトと組み合わせた高速かつ低コストのモデルだと説明した。
代替案として挙げたのが、Qwen 3.5 Flashのような低コストのオープンウェイトモデルだ。取引戦略に合わせてシステムプロンプトを調整すれば、汎用AIではなく特定タスクに特化したモデルのように活用でき、推論コストをほぼゼロに近い水準まで抑えられるとしている。
もっとも、そこにも現実的な参入障壁がある。低コストモデルをローカル環境や自社サーバー上に構築するには、相応の技術知識が求められるためだ。寄稿者はこれを「新たなボトルネック」と表現した。多くの個人投資家はDevOpsエンジニアではなく、複雑なサーバー構築やデプロイに対応しきれない。その結果、高額なAPIベースのモデルに戻り、コスト負担に耐えきれずボット運用を断念するケースが多いという。
このため、今後のAIトレーディング市場では、優れたプロンプト設計だけでなく、インフラをどこまで簡素化できるかが競争力を左右するとの見方も出ている。ユーザーが戦略を入力するだけで、システムが低コストモデルに処理を自動分散し、隔離環境で実行できるプラットフォームが必要だという。寄稿者は「インフラがユーザーの妨げになってはならない」と強調した。
市場では今回の事例について、個人向けアルゴリズム取引の参入障壁が従来のコーディング能力から、ホスティング費用と推論コストの問題へ移りつつあることを示しているとの分析も出ている。AI自動売買の大衆化に向けては、高い推論コストと複雑なデプロイ環境の解消が主要課題として浮上している。