2025年1月に打ち上げられたSpaceXの「Falcon 9」ロケット第2段とみられる物体が、8月5日に月の表側へ衝突する可能性が高まっている。
米ITメディアArs Technicaが4月29日(現地時間)に報じた。天文学者の分析によると、この物体は月面のアインシュタイン・クレーター付近に秒速2.43kmで衝突する見通しだ。
問題の物体は、2025年1月15日にFireflyの月着陸船「Blue Ghost」と、ispaceの「HAKUTO-R」を打ち上げたFalcon 9の第2段とみられている。2機の着陸船に加え、フェアリングと第2段も分離直後からそれぞれ追跡されていた。Blue Ghostは月面着陸に成功し、フェアリングは地球大気圏に再突入した一方、第2段だけが地球周回軌道に残った。
地球近傍天体の追跡ソフト「Project Pluto」を開発したビル・グレイ氏は、この物体が打ち上げ後も継続して観測されてきたと説明した。第2段は比較的高い軌道を飛行していたため地球へ再突入せず、月や地球に数回接近したものの、これまで衝突には至らなかったという。
グレイ氏によると、2026年2月26日時点の観測記録は1053件に達した。
同氏は物体の識別についても強い確信を示した。第2段「2025-010D」は打ち上げ直後から追跡されており、今回は同一物体とみて疑いの余地はないとしている。4年前、別のFalcon 9第2段が月へ衝突するとみられた後、中国の「嫦娥5-T1」ミッションの上段だったと訂正されたケースとは異なるという。
衝突時の速度は時速約5400マイルで、音速の約7倍に相当すると推定される。機体の大きさは高さ13.8m、直径3.7m。月には大気がないため燃え尽きることはなく、ほぼ原形のまま月面に達する見込みだ。
一方で、形成されるクレーターは小規模にとどまる可能性が高い。グレイ氏は、衝突による発光は弱く、地上の望遠鏡で観測するのは難しいとの見方を示した。
現時点で、月面上で直接的な被害が生じる可能性は低いとみられる。周辺に人類が着陸させた機器はなく、グレイ氏も月面上のいかなる対象にも危険はないと述べている。
ただ、課題は今後の運用ルールだ。NASAと中国は月の南極付近に半恒久的な拠点を設ける計画を進めており、探査車や補給物資、居住施設、通信機器などを運ぶ月関連の打ち上げは大幅に増える可能性がある。打ち上げ回数が現在の10倍近くに増えるとの見方も出ている。
こうした中、ロケット第2段をどう処理するかが月探査の新たな論点として浮上している。わずかな追加燃料と事前の運用設計によって、打ち上げ企業は第2段を地球や月に再び衝突しにくい太陽周回の廃棄軌道へ投入できるとの提案もある。将来、月面拠点や各種設備が増えるほど、こうした処理を標準手順にすべきだとの指摘が強まりそうだ。