米国のデータセンターがもたらす環境・健康面の外部コストが、年間250億ドルに達するとの試算が明らかになった。AIの普及で設備増強が進むなか、電力需要の拡大に伴う大気汚染や住民負担が、各地で地域対立を招いている実態が浮かんだ。
TechRadarが29日(現地時間)に報じた。全米経済研究所(NBER)が公表したワーキングペーパーでは、Carnegie Mellon Universityの経済学者ニコラス・Z・マラーが、米国内で稼働する約2800カ所のデータセンターを対象に、電力需要とそれに伴う大気汚染、温室効果ガス排出の影響を分析した。
今回の分析では、データセンター自体の電力消費だけでなく、電力供給のための発電過程で生じる間接的な環境負荷も織り込んだ。
マラーは、外部コストの総額を年250億ドルと推計。このうちAI利用に直接関連する分は約37億ドルとした。さらに、計画中のデータセンター新増設が実現した場合、関連被害は短期的に最大85%増える可能性があると見込んでいる。
研究では、データセンター周辺で住民の健康リスクが高まっている点も指摘した。発電過程で発生する微小粒子状物質「PM2.5」への曝露は、肺疾患や心疾患、早期死亡のリスクを高める可能性があるという。
その結果、地域の医療機関の負担増や、住民の医療費支出の増加にもつながるとしている。
電力供給のあり方も論点として挙がった。研究は、トランプ政権の再生可能エネルギーに否定的な方針のもと、急増するデータセンターの電力需要に対応するため、停止していた化石燃料発電所の再稼働を可能にする法案が推進されたと指摘した。
これにより、温室効果ガスや大気汚染物質の排出がさらに増える恐れがあるとしている。
マラーは、足元の排出増が、まだ顕在化していない将来の社会的コストを押し上げる可能性が高いとみる。現世代のAIインフラ拡大の負担が、将来世代に転嫁されかねないという見方だ。
一方で、こうした外部コストを、データセンター建設を進めるテック企業が十分に負担していないケースも少なくないという。研究によると、新規データセンター投資では税制優遇を受ける例が多い一方、電力網や送電インフラの拡充に必要な費用は、地域社会や公共部門が負担する構図が残っている。
トランプ政権は、追加の発電コストの一部をテック企業にも負担させるため、「電気料金負担者保護の誓約」を導入した。ただ、研究はこの制度について、任意参加にとどまり、実効性や責任の明確化が不十分だと批判した。
実際、地域社会の反発は強まっている。米国の一部地域では、データセンターの電力需要増を背景に電気料金が急騰しているほか、期待された雇用創出効果も限定的だとの不満が出ている。
データセンターは建設段階では雇用を生むものの、運用段階では自動化率が高く、恒常的な雇用規模は大きくないためだ。
研究は、AIが生産性向上や経済成長に寄与する可能性を認めつつも、データセンター周辺の住民が、環境被害や医療費増加を受け入れてまでそれを支持するとは限らないと分析した。
こうした状況を受け、全米ではデータセンター建設に反対する住民団体が増加しており、一部の大型案件では計画の遅延や中止に至った例も出ている。
AIを巡る世論も悪化している。調査では、米国人の最大71%がAIは恒久的な雇用減少を招く可能性があると考えており、47%はAIが人類に悪影響を及ぼす可能性が大きいとみている。
データセンター拡大を巡る議論は、もはや単なる技術投資やAI競争の話にとどまらない。地域の健康被害や電気料金、税制優遇、インフラ費用の負担を巡る社会的対立へと広がっている。