写真=Shutterstock/鉄系電解液の低コストと長寿命の両立が今回の研究の焦点

中国科学院の研究チームは、6000回超の充放電でも性能劣化がほとんどみられない全鉄フロー電池向け電解液を開発した。原料コストはリチウム系電池の最大80分の1になり得るとしており、次世代の系統用蓄電システム向け技術として注目されそうだ。

CleanTechnicaが28日付で報じた。研究成果は国際学術誌「Advanced Energy Materials」に掲載された。

今回の研究は、全鉄フロー電池の課題とされてきた長期安定性の改善に焦点を当てたものだ。全鉄フロー電池は、正極・負極の両方に鉄系電解液を使う。原料価格が低く、火災リスクも抑えやすいことから、大規模な系統用蓄電システムの候補として関心を集めてきた。

一方で従来は、負極で生じる水素ガスの副反応や活物質の損失、電解液間のクロスオーバーによって、サイクル寿命が低下しやすいという課題があった。

研究チームは、鉄錯体を用いた負極電解液の構造を新たに設計し、こうした問題を抑制したと説明している。立体障害の大きい構造と負電荷の保護層を組み合わせることで、電気化学的な安定性を高めると同時に、膜を通じた透過も抑えたという。

研究では、12種類の有機配位子を基に11種類の鉄錯体を設計し、最終的な電解液を選定した。この電解液を用いた全鉄フロー電池は、電流密度80mA/cm2で6000回以上にわたり安定した充放電性能を維持したとしている。

コスト面でも優位性を打ち出す。リチウムイオン電池の主要原料である炭酸リチウムの価格は、直近5年間で1トン当たり7000ドル〜8万ドルの範囲で推移した。一方、全鉄フロー電池の原料となる硫酸鉄は、産業副産物として比較的安価に調達しやすいという。

ただ、研究チームが示した「80分の1」という数値は、あくまで原材料ベースの比較だ。実際の系統用蓄電システムでは、イオン交換膜やポンプ、電力変換装置などの設備コストも加わる。とりわけ高価なイオン交換膜の使用量をどこまで抑えられるかが、商用化時の競争力を左右する要因となる。原料面の優位性がそのままシステム価格に反映されるかどうかは、今後の検証が必要だ。

市場では、長時間蓄電の需要拡大を背景に、全鉄フロー電池の可能性に注目が集まっている。足元の系統用蓄電池市場はリン酸鉄リチウム(LFP)電池が主流だが、数日単位の蓄電が求められる領域では、エネルギー密度よりも長寿命や低い初期投資コストが重視される可能性があるためだ。

もっとも、今回の成果はなお実験室段階にとどまる。研究チームはパイロット設備の構築や商用化の時期を明らかにしていない。公表された6000回の寿命も実験室セルでの結果であり、実際のキロワット級やメガワット級システムでは、熱管理や膜汚染、電流分布などの要因で性能が変動する可能性がある。

このため、今後は第三者による性能検証や実証設備での運用実績が、商用化の実現性を左右するとみられる。一方で、鉄系材料が持つ低コスト構造そのものは、長期的に系統用蓄電システム市場の競争環境を変える潜在力があるとの見方もある。

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