Appleが9月にCEOを交代し、後継にはハードウェアエンジニアリング担当上級副社長のジョン・ターナス氏を充てる見通しとなった。iPhoneやMac、iPadなど主力製品のハード開発を担ってきたエンジニア出身の幹部で、ティム・クック体制との違いに注目が集まっている。
米ITメディアのTechRadarは21日(現地時間)、クックCEOがターナス氏へのCEO交代を明らかにしたと報じた。
ターナス氏はこれまで、Appleの主要製品におけるハードウェア開発を統括してきた。表舞台に立つ機会は多くなかったものの、今回の人事を機に、次期経営を担う中核人物として存在感を強めている。
クック氏は後継者であるターナス氏について、エンジニアとしての思考と革新性を備え、誠実さをもって組織を率いる人物だと評価したという。市場では、クック氏に近い安定重視の路線を継ぐのか、それとも製品面で新たな方向性を打ち出すのかが焦点になっている。
ターナス氏は慎重で、比較的リスクを抑えるタイプとみられる一方、経営管理よりもエンジニアリングに軸足を置く点が特徴とされる。Appleが今後、ハード開発の競争力を前面に打ち出すなら、製品設計や実装への理解を経営トップ自ら備えることの意味は小さくないとの見方もある。
その経歴にも、こうした傾向が表れている。ターナス氏は2001年にAppleへ入社する前の1997年から2001年まで、VRヘッドセットを手掛けるVirtual Research Systemsで機械エンジニアとして勤務した。
VR市場が本格的に立ち上がる以前から関連ハードウェアに携わっていた経験を持つことになり、Vision Proに代表されるAppleの空間コンピューティング戦略との接点としても関心を集めている。Vision Proは高価格などが課題として指摘されてきた一方で、エンターテインメント機器として一定の存在感を示しているとの評価もある。
学生時代の取り組みも、Appleが検討しているとされる新製品構想との関連で注目されている。AppleInsiderによると、ターナス氏はペンシルベニア大学在学中、四肢麻痺の患者が頭の動きで操作できる機械式アームを卒業制作として開発した。
Appleの内外では、画面を備えたロボットアーム型製品の構想が取り沙汰されており、ターナス氏はこうした領域への理解にも強みを持つ可能性があるとみられている。もっとも、このロボット機器はなおうわさの段階にあり、実際の発売までには時間を要する可能性がある。
人物像の面でも、クック氏との違いが指摘されている。ターナス氏はロックバンド「Rush」のファンとして知られ、卒業アルバムには同バンドの楽曲「Losing It」の歌詞「ある者は自らの幻想を実現するために世界を動かすべく生まれる」が掲載されていたと伝えられている。
公の場では控えめな印象が強い一方、私的な嗜好には個性がにじむ。大学時代は男子水泳チームで活動し、その後はサイクリングや自動車レースを楽しむ人物として紹介されている。
Appleの同僚とオフロードラリーに出かけることもあるという。落ち着いた対外イメージとは対照的に、スピード感のある趣味を持つ点も、従来のCEO像との違いとして受け止められている。
対外コミュニケーションのスタイルにも差がある。ターナス氏はクック氏と異なりLinkedInのプロフィールを持つが、その内容は簡潔だ。しばらく写真が掲載されていなかった時期もあり、最近になって画像が追加されたと報じられた。CEO就任を控えた現在も、個人としての発信より社内での役割や製品中心の経歴を前面に出してきた姿勢がうかがえる。
Appleにとって今回の人事は、単なる世代交代にとどまらず、リーダーシップの性格変化を意味する可能性がある。ターナス氏はクック氏と同じ50歳でCEOに就くことになるが、その出発点はオペレーションやサプライチェーンではなく、製品開発の現場に近い。
9月以降のAppleが、運営やコスト管理を重視する路線を維持するのか、それともハードウェアの完成度や新製品構想により比重を置くのか。次期体制の戦略運営が注目される。