企業のAI活用は性能偏重からコスト効率重視へ移りつつある(写真=Shutterstock)

最先端のAIモデルが必ずしも企業の実務に最適とは限らない――。Databricksの上級副社長、デイビッド・メイヤ氏は、大規模言語モデル(LLM)は複雑な問題解決では強みを発揮する一方、請求書の誤り検知のような定型業務では、かえって非効率になる場合があるとの見方を示した。企業のAI導入では、最高性能そのものよりも、処理速度とコスト効率を重視する流れが強まっている。

香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)が19日付で報じた。メイヤ氏はインタビューで、LLMが日常的な事務処理に常に適しているわけではないと述べた。

具体例として挙げたのが請求書の誤り検知だ。高性能モデルに誤った数値の検出を任せると、「誤りを見つけて後続の修正につなげるのではなく、数値そのものを修正してしまうことが多い」という。

企業システムでは、その場で正答を生成することよりも、どの項目に問題があるのかを正確に示し、次の処理工程に回せることが重要になる。メイヤ氏は、AIはこうした用途で恣意的な処理をしやすいと指摘した。

こうした限界は他分野でも見られるという。メイヤ氏は、Anthropicの「Claude」のような高性能モデルはコーディングに強みがある一方、データエンジニアリングでは、その領域に特化した学習データを持つモデルに劣る可能性があると説明した。

データエンジニアリングには、大規模データセットの変換や欠損値、ゼロ値の整理などが含まれる。メイヤ氏は「どれほど最先端のAIモデルでも、あらゆる業務を同じ水準でこなせるわけではない」と述べた。

こうした状況を受け、企業向けAIの運用手法も変わりつつある。メイヤ氏によると、強化学習で調整した小型のオープンソースモデルは、特定業務をより低い学習コストで処理できるという。

このアプローチを取れば、最先端の大規模モデルに比べてコストを大幅に抑えられるとした。

こうした考え方はDatabricksの製品にも反映されている。自然言語をデータクエリに変換するAIアシスタント「Genie」は、複数のエージェントとAIモデルを組み合わせる構成を採用している。

顧客の利用パターンを分析した結果、企業は最先端の大規模モデルよりも小型モデルを選好する傾向が確認されたという。パラメータ数の少ない小型モデルは、低コストと低遅延が強みとされる。

メイヤ氏は「小型モデルは構造上、初回トークン生成までの時間も応答時間もはるかに短い」と説明した。そのうえで、1秒当たりのクエリ数が非常に多いサービスに拡張するほど、企業は処理量を支えられる低コストのモデルを必要とすると述べた。

企業にとっては、性能の高さだけでなく、実運用での応答速度やコストがモデル選定の重要な基準になっているという。

もっとも、低コストで高性能なモデルをすぐに導入できるとは限らない。メイヤ氏は、Alibaba Cloudが開発した「Qwen」シリーズに対する市場の関心は高いとし、中国のオープンソースモデルは性能、遅延、コストの面で驚くべき水準に達していると評価した。

一方で、現時点の企業環境では、規制やコンプライアンス上の懸念から活用が制限されるのが実情だとも指摘した。

そうした制約があるなかでも、企業のAI導入ペースは加速している。メイヤ氏は「多くの企業は取り残されることを恐れ、可能な限り早くAIを推進しようとしている」と語った。

また、上場企業はAI投資が財務諸表に及ぼす影響をより慎重に見極める一方、未上場企業は比較的積極的に支出する傾向があると付け加えた。

企業向けAI市場の競争軸は、誰がより大きなモデルを先に出すかから、実務をどれだけ速く、安く処理できるかへ移りつつある。Databricksが示した方向性も、汎用の超大規模モデルと業務特化型の小型モデルを組み合わせる発想に重心が置かれている。

キーワード

#Databricks #LLM #企業向けAI #強化学習 #オープンソース #Claude #Genie #Qwen #Alibaba Cloud
Copyright © DigitalToday. All rights reserved. Unauthorized reproduction and redistribution are prohibited.