暗号資産を巡る脅威は、サイバー攻撃から物理的な脅迫にも広がっている。写真=Shutterstock

フランスで、暗号資産保有者を狙った誘拐や住居侵入が急増している。被害者を脅迫したり暴行を加えたりして資産移転を強いる「レンチ攻撃」が広がっており、暗号資産を巡る新たな治安リスクとして浮上している。

CoinDeskが19日(現地時間)に報じたところによると、フランス政府は2026年に入り、暗号資産に関連する誘拐や住居侵入が少なくとも41件発生したと明らかにした。発生は2~3日に1件のペースで、直近ではカルーゼル・デュ・ルーヴル周辺で開かれた国際ブロックチェーンイベントでも警備が大幅に強化されるなど、警戒が一段と強まっている。

フランス当局も対応を急いでいる。ジャン・ディディエ・ベルジェルとローラン・ヌニェズは追加対策の検討に着手し、通報や保護要請を受け付ける仕組みを通じて被害申告への対応を進めている。ただ、事件の増加ペースが速く、既存の対策だけでは不十分との見方も出ている。

レンチ攻撃は、パスワードやシステムを破るのではなく、被害者本人を脅迫・暴行し、資産移転の承認を直接強要する手口を指す。いったん取引が実行されると取り消しは難しく、移転後の資金は複数のウォレットやブロックチェーンを経由するため、追跡も困難になりやすい。セキュリティ専門家のジェイムソン・ロップは「一度でも成功事例が出れば、新たな標的を呼び込むシグナルになる」と指摘した。

手口はさらに巧妙化している。TRM Labsのフィル・アリスは、犯罪者が単にウォレットを狙うのではなく、SNSでの活動や公開イベントへの参加履歴、漏えいデータなどを組み合わせ、被害者の生活パターンまで追跡していると説明した。現実世界の身元情報と暗号資産保有が過度に結び付けば、リスクは急速に高まるという。

フランスで問題が深刻化している背景には、内部情報の漏えいもある。税務当局の職員が犯罪者に機微情報を渡していた事件が明らかになり、公的データや内部者リスクが実際の犯罪に結び付く可能性への懸念が強まった。犯罪組織が国境をまたいで連携している可能性も指摘されている。

標的は大口保有者に限らない。中規模の投資家も狙われており、家族を含めて脅迫対象となるケースも増えている。2026年1月には、ハードウェアウォレット企業Ledgerの共同創業者デイビッド・バランが誘拐される事件も起き、波紋を広げた。

この傾向はフランスだけにとどまらない。セキュリティ企業の集計では、2025年に世界で確認された物理的強要事件は72件と、前年比75%増加した。暴行を伴うケースは250%増だった。ただ、多くの事件は一般の強盗や侵入として分類されており、実際の件数はさらに多い可能性がある。

専門家は対策として、マルチシグウォレットの活用や出金の遅延設定、支出上限の設定などを挙げる。物理的に脅迫された場面でも大口資金を即時に動かしにくい設計にすることで、犯罪者の期待収益を下げられるという。

暗号資産の普及が進むほど、レンチ攻撃は単発の犯罪にとどまらず、構造的なセキュリティリスクとして定着しつつある。フランスで顕在化したこの問題は、個人保有者の保護と捜査体制の強化を同時に迫るグローバルな課題になっている。

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