製造業で注目が高まるAX(AIトランスフォーメーション)は、スマートファクトリーと同義ではない。両者を分ける決定的な違いは、工程データを基にAIが自ら分析・判断し、異常対応や改善策の提示まで担うかどうかにある。LG DisplayはOLEDの全工程にAI活用の生産体制を導入し、設計時間の短縮や年2000億ウォン(約220億円)超のコスト削減を実現した。中国でも国家戦略として同分野への取り組みが加速している。
従来の工場自動化(FA)は、あらかじめ設定したプログラムに従って生産設備が動く仕組みだ。設備自体が状況に応じて判断する機能はなく、少品種大量生産に適した構造だった。
これに対し、スマートファクトリーはIoTやビッグデータ、サイバー・フィジカル・システム(CPS)などを組み合わせ、設備間のリアルタイムな情報連携や仮想空間でのシミュレーション、生産状況に応じた自動発注などを可能にした。韓国IR協議会もこうした点をスマートファクトリーの特徴として挙げている。
ただ、この段階ではデータの役割は主に収集と監視にとどまる。工程で異常が起きた場合も、最終的には人がデータを読み解き、原因を分析したうえで対策を決める必要があった。
AXはその先の段階に位置付けられる。工程データをAIが自動で分析し、異常の原因候補を洗い出し、対応策まで提案するのが特徴だ。人がデータを解釈して意思決定するのではなく、AIが判断機能まで担う点が大きく異なる。LG Displayはこれを「AXファブ」と呼び、工程・設備データにAIを重ねることで、知能的かつ自律的に運営される工場を目指している。
その違いは実際の成果にも表れている。LG Displayは2025年、OLEDの全工程に自社開発のAI生産体制を導入した。まず設計段階では、異形ディスプレイの曲面パネルのエッジ設計に独自の「エッジ設計AIアルゴリズム」を適用した結果、従来1カ月かかっていた図面作成を8時間に短縮した。これまではパネル外周のデザインに合わせて補正パターンを形状ごとに手作業で設計しており、不良が出れば最初からやり直す必要があった。
AI導入後は、曲面や狭額縁に必要なパターンを自動設計できるようになり、エラー率も大きく低下した。視野角によるOLEDの色変動を最適化する光学設計でも、5日以上かかっていた作業が8時間で完了するようになった。設計案の作成から検証、提案までをAIが一貫して担う仕組みだという。
製造現場での効果はさらに大きい。OLED製造に関するドメイン知識を学習したAIが、工程で発生し得る異常原因のケースを自動分析し、解決策まで提示する。全生産工程でリアルタイムに収集したデータをAIが分析してレポートを作成し、異常要因となる装置の稼働を自動で停止するシステムも構築した。品質改善に要する期間は3週間から2日に短縮され、良品率の向上によって年2000億ウォン(約220億円)以上のコスト削減効果が出たとしている。同社は今後、AIが自ら生産性改善策を提案し、装置制御まで担う段階へ発展させる計画だ。
FAからスマートファクトリー、さらにAXへと進む流れの中で、最大の分岐点は「AIが判断するかどうか」にある。
中国はこの転換を国家戦略として進めている。2015年に打ち出した「中国製造2025」で製造業を国家競争力の中核に位置付けて以降、FAからスマートファクトリー、さらにAI基盤の知能化へと至る3段階の転換を、この10年で集中的に推進してきた。主要製造工程のスマート化や、重点産業におけるデジタル作業現場の構築も重点プロジェクトに盛り込まれた。
その成果は「灯台工場」の数にも表れている。Haierは2026年1月、青島の浄水フィルター工場が新たに選定され、WEFの灯台工場は計13拠点となった。Schneider Electricと並び世界最多だ。青島工場は浄水処理の全工程にAIを統合した点が特徴で、AIアルゴリズムと32のデジタル技術ソリューションを導入し、品質を40%改善、品質保証コストを72%削減、平均在庫保管期間を53%短縮した。WEFによると、中国の灯台工場は計84拠点で世界全体の約42%を占め、米国の32拠点、ドイツの18拠点、日本の15拠点の合計65拠点を上回る。
Haierのジョウ・ユンジエ会長は、「AIとロボット技術の融合は、製造業の高度化と未来の生産力形成に向けた戦略的中核だ」と述べ、今後5年間でAI、半導体、IoTセキュリティなどの基盤技術分野に1000億人民元以上を投じる方針を明らかにした。HaierのAI導入が速い背景には、単なる技術投資にとどまらず、既存工程を大胆に見直して新たな方式へ再構築する企業文化があるとされる。WEFが選定したHaierの灯台工場には、上海のコネクテッド洗濯機工場や先進的な冷蔵庫工場も含まれており、AI活用が特定製品にとどまらず家電製造全般に広がっていることを示している。
では、自社工場はいまどの段階にあるのか。冒頭の問いに立ち返れば、AXはスマートファクトリーそのものではなく、その次の段階といえる。FA(自動化)、スマートファクトリー(データに基づく能動対応)、AX(AIに基づく自律判断)という3段階の進化のうち、韓国の製造業の多くはなお第1段階から第2段階にとどまっている。
企業がAX導入を検討する際、まず必要なのは自社工場の現在地を見極めることだ。工程データを収集・蓄積する仕組みが整っていれば、AIレイヤーを追加することで短期間でも成果を上げやすい。一方で、工程データが十分に蓄積されていない状態では、AIを導入しても学習材料が乏しく、効果は限定的になりやすい。スマートファクトリーの整備を飛ばして、いきなりAXに移行しにくい理由でもある。
LG Displayが年2000億ウォン超のコスト削減を実現できたのも、数年にわたって蓄積してきたOLED工程データがあったためだ。
課題は時間だ。中国が国家戦略の下で10年かけて3段階の転換を一気に進める間に、韓国製造業の転換が遅れれば、技術格差はそのままコスト格差に直結しかねない。LG Displayのイ・ヨンジュ製造AI室長は、「中国企業の追い上げは非常に激しい」としたうえで、「持続的な競争優位を確保するうえで最も重要な手段がAIだ」と述べた。
韓国政府もこうした危機感を踏まえ、製造AI特化型スマート工場支援事業を進めている。2025年には約1000の企業、大学、研究機関が参加する製造AX(M.AX)アライアンスを発足させた。2030年までにAI工場500カ所を普及させ、100兆ウォン(約11兆円)超の付加価値を創出することを目標に掲げている。