AI時代の到来を背景に、ベーシックインカムを巡る政策論議が改めて注目を集めている。写真=Pix4free

イーロン・マスク氏は、AIによる雇用喪失への対応策として、政府が全国民に広く給付する「ユニバーサル・ハイ・インカム」を提唱した。AIとロボティクスが生産力を大幅に押し上げることで、インフレは起きにくいとの見方も示した。

Business Insiderによると、マスク氏は4月16日夜(現地時間)、Xへの投稿で、AIの普及で生じる失業に対する最善の対策は、政府によるユニバーサル・ハイ・インカムだと主張した。

ユニバーサル・ハイ・インカムは、すべての人に定期的に現金を給付するベーシックインカムよりも手厚い概念だ。住居費や食費などの生活必需費を賄うだけでなく、生活費を十分に上回る所得水準を想定しているという。

マスク氏はあわせて、AIとロボティクスが通貨供給の増加を上回るペースで財やサービスの供給を増やすため、インフレにはつながらないとの持論を示した。

米労働市場では、AIの影響拡大を見込む予測が相次いでいる。Boston Consulting Groupは今月、今後5年間で米国の雇用の10〜15%が失われる可能性があると試算した。影響規模は約1700万人〜2500万人に上るという。Goldman Sachsも昨年、米国の労働者の2.5%が失職リスクに直面し得ると分析している。

学界でも、マスク氏の見方に一定の理解を示す声がある。ジョージタウン大学カタール校の哲学教授、カール・ワイダークイスト氏は、ベーシックインカムが生活費を上回る水準まで拡充され得るという点では、マスク氏の指摘は妥当だとの見方を示した。

その理由として、自動化やコンピューター化、AIの普及によって、国内総生産(GDP)に対するベーシックインカム財源の負担が低下している点を挙げた。

一方でワイダークイスト氏は、より大きな問題は失業そのものではなく、低賃金と賃金停滞だと指摘した。インフレ見通しについても、マスク氏の予測が現実になる可能性はあるとしつつ、断定は避けるべきだと述べた。

過去50年間でGDPは大きく拡大したものの、その果実の多くは富裕層に集中し、貧困はなお解消されていないとも説明した。

これに対し、University College Londonの研究員、ジェームズ・ランサム氏は、より現実的な代替策として再教育やリスキリングを挙げる。

同氏は、十分な水準のユニバーサル・ハイ・インカムを賄えるのであれば、再教育やリスキリングも可能だとしたうえで、今後数年で多くの労働者が生産性向上の恩恵を受け得るとしても、それを手にするには現金給付よりスキル強化が重要だと述べた。

仮に職を失った場合でも、適切な再教育の方が、ベーシックインカムよりも当事者の主体性や自尊心を守りやすいとも付け加えた。

マスク氏は今年初めに出演したポッドキャストでも、同様の見通しを語っている。AI、エネルギー、ロボティクスの発展が生産性を押し上げ、すべての人にユニバーサル・ハイ・インカムを提供できるだけの豊かさを生み出し得ると述べた。

さらに、10〜20年以内には、老後資金を別途積み立てる必要性が薄れる可能性があるとも主張した。

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