NVIDIAのジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)が、米企業による中国向け先端チップ販売を厳しく批判してきたAnthropicのダリオ・アモデイCEOに反論した。対中AI半導体輸出を巡る両氏の溝は、米国のAI戦略と技術主導権を巡る論争の様相を強めている。
Business Insiderが16日(現地時間)に報じたところによると、フアンCEOは最近出演したポッドキャストで、米企業のAIチップ販売を北朝鮮への核兵器提供になぞらえたアモデイ氏の発言を真っ向から批判した。AIをそのような対象と比較するのは「狂気だ」と強く否定した。
争点は、米国が中国向けAI半導体の輸出をどこまで認めるべきかにある。フアンCEOはこれまで一貫して、中国市場を放棄すべきではないとの立場を示してきた。一方のアモデイ氏は、先端チップが中国のAI競争力を押し上げる可能性があるとして、輸出規制の必要性を訴えてきた。
フアンCEOは、AI向け計算能力を核兵器の材料である濃縮ウランになぞらえる議論にも反論した。「われわれが扱っているのは濃縮ウランではなく、ただのチップだ。中国でも独自に開発できる」と述べ、技術統制には限界があり、結果的に市場を失う恐れがあるとの考えを示した。
アモデイ氏は今年1月に公表したエッセイ「技術の思春期」で、中国の先端半導体の生産能力は米国より数年遅れていると評価したうえで、その差が維持されている間に追加の技術支援を提供する理由はないと主張した。この発言は、米企業による対中チップ販売を念頭に置いたものと受け止められた。
これに対しフアンCEOは、「何の妥当な理由もなく世界第2の市場を捨てるべきだという議論だ」と反発した。特に、技術エコシステムの分断が進む可能性に懸念を示している。
米国ではクローズド型AIモデル、中国ではオープンソースモデルがそれぞれ独自のエコシステムを築けば、米国の技術的影響力が弱まる恐れがあるというのがフアンCEOの見方だ。
両氏の対立は今回が初めてではない。昨年には、Microsoft(MS)がNVIDIAとともにAnthropicへの最大100億ドル(約1兆5000億円)規模の投資に言及し、協力機運も取り沙汰されたが、対中チップ輸出を巡っては改めて立場の違いが鮮明になった。
政策面でも不確定要素は多い。フアンCEOはトランプ政権に対して働きかけを進め、旧型AIチップ「H-200」の中国販売が認められた経緯がある。これは、バイデン政権時代に国家安全保障上の懸念から導入された規制を一部見直す動きと位置付けられるが、売上高の25%を米政府に納める条件が付いた。
もっとも、事業面での成果はなお限定的だ。NVIDIAは中国でのH-200販売で目立った売上をまだ計上しておらず、米政府の承認手続きが足かせになっているという。
今回の論争は、単なる輸出許可の可否を超え、米国AI産業の戦略そのものに関わる問題へと広がっている。NVIDIAが中国を中核市場と位置付ける一方で、Anthropicは先端的な計算能力の移転自体を戦略リスクとみているためだ。
今後、米政府が安全保障と産業競争力の間でどこに均衡点を置くのかによって、世界のAIサプライチェーンと技術エコシステムの方向性は大きく左右されそうだ。