独Fraunhofer集積システム・素子技術研究所は、重量約94kgで1000馬力級の出力を実現する試作電動モーターを公開した。小型・軽量で高出力を実現した点が特徴で、地域航空機の電動化に向けた技術として注目される。
米ITメディアTechRadarが4月16日(現地時間)に報じた。同研究所によると、この試作機は1000馬力(約746kW)に迫る出力を発揮し、出力密度は8kW/kgに達する。一般的な電気自動車向けモーターの2〜4kW/kg、高性能な航空向けモーターの5〜6kW/kgを上回る水準だという。
本体の大きさは、重量12.5kgのガスボンベ並みとされる。TechRadarは、Tesla Model S Plaidが約1020馬力を得るために3基のモーターを搭載しているのに対し、今回の試作機は単体でこれに近い出力を実現したと伝えている。
高出力化の中核となるのは、構造と冷却方式の見直しだ。研究チームは従来の銅線巻線に代えて、4×3相のヘアピン巻線を採用。同じスペースにより多くの銅を収めることで、大電流への対応と高出力化を図った。あわせて、機械的な剛性や冷却効率の向上にもつなげたとしている。
冷却には、空冷ではなくオイルを直接噴射する方式を採用した。発熱を素早く抑え、高出力状態を安定して維持しやすくする狙いがある。Fraunhoferは、スペースや重量の制約が厳しい航空分野で有効な設計だと説明している。
素材面でも性能を高めた。モーターには厚さ0.15mmのNO15鋼板を使用しており、一般的なモーター用鋼板の約半分の厚さという。渦電流を抑えることで、高速回転時の発熱低減と効率改善を見込む。回転数は約2万1000rpmまで対応可能だ。
安全性を意識した冗長設計も盛り込んだ。モーターは4つの独立したセクションで構成され、それぞれが巻線、インバーター、制御システムを備える。1系統に不具合が起きても、残る3系統で動作を継続できる構成で、航空分野の安全基準を意識した設計としている。
開発は、EUのクリーン航空プログラム「Project AMBER」の一環として進められた。同プロジェクトは、水素燃料電池ベースのハイブリッド電気推進システムにより、地域航空機の炭素排出を少なくとも30%削減することを目標に掲げる。モーターはAvio Aeroの「Catalyst」ターボプロップエンジンと組み合わせる想定で、GE Aerospaceもコンソーシアムに参加している。
もっとも、商用化に向けた課題はなお残る。試作機は実験室レベルでの検証段階にあり、実際の航空認証を通過する機体向けハードウェアとの間には技術的な隔たりがあるとみられる。水素燃料電池が地域航空路線で安定して電力を供給できるかどうかも、引き続き実証が必要だ。
それでも今回の成果は、航空機の電動化に向けた前進と受け止められている。高出力と軽量性に加え、冷却技術や冗長設計を単一システムに統合したことで、次世代の航空推進システムが研究段階から実用化へ一歩近づいた可能性がある。