人工知能(AI)の進化が急ピッチで進むなか、各国政府の規制整備が追い付いていない。法整備を進めても技術進歩のスピードが上回り、制度の実効性が短期間で薄れるケースが相次いでいる。
米New York Timesによると、2年前に整備されたAI関連法でも、すでに実効性が限られているとの見方が出ている。AI規制を目的とした法案も、採決に至らないまま停滞する例が少なくない。
国際協調も進んでいない。AI対応を巡る各国の議論は続いているものの、具体的な後続措置には結び付いていないという。ワシントンで最近会談したトランプ米大統領と習近平中国国家主席も、AIの重要性では認識を共有したが、AI安全を巡る具体策では一致できなかった。
ニューヨークで開かれた国連総会でも、多くの首脳がAIリスクへの対応の必要性に言及した。一方、トランプ大統領は「米国はAIを統制するためのグローバリスト的な仕組みづくりを目指すいかなる試みも拒否する」と述べた。
こうしたなか、地政学や経済安全保障の観点も重なり、各国のAI政策は様子見の色合いを強めている。多くの国が米国と中国の動向を見極めようとしているが、その米中自身も明確な方向性を示せていない。New York Timesは、米国ではトランプ政権内でもAI安全を巡る見解が割れていると報じた。
トランプ大統領は、過度な規制はイノベーションを阻害し、中国に主導権を渡しかねないと主張している。政策の空白が続くなか、AnthropicやOpenAIなどのAI企業は、事実上、自主的な統制を迫られているという。
中国も、チャットボットのコンテンツ検閲を含む一部規制を導入している。ただ、AI技術開発では主導権確保に向けて開発速度をさらに引き上げていると、New York Timesは伝えた。
法整備そのものが解決策になるわけでもない。欧州連合(EU)は2024年にAI規制法を制定したが、施行までに数年を要した。すでにAI技術の進展を反映するには法改正が必要だとの指摘も出ている。
ウルズラ・フォンデアライエン欧州委員長は9月、EU高官らを集めて非公開会合を開いた。AIも主要議題の一つとなり、EUの新たなAI分野の責任者であるジム・ハゲマン・スナベ氏(ドイツSiemens会長)が、欧州がAIを経済成長に生かす方策を提示した。
一方で、別の出席者からはAI安全上の問題や拡大するリスクへの懸念も示された。EU首脳は結論を持ち越し、年内に追加協議を続ける予定だ。
韓国では2026年1月、AIの規制と振興を包括的に盛り込んだ「人工知能の発展と信頼基盤の整備等に関する基本法(AI基本法)」が全面施行された。ただ、足元では同法の改正を求める声が強まっている。
New York Timesによると、インド、日本、オーストラリア、カナダ、ケニアは、比較的規制を抑える、あるいは当面は推移を見守るアプローチを取っている。ブラジルでは、より包括的なAI規制の導入が議論されているという。
各国政府が方向性を定めきれない一方で、規制導入を求める圧力は強まっている。AnthropicやOpenAI、Google DeepMindなどAI開発企業のトップは、先端AIモデルの開発速度を抑え、政府の監督を強化するよう訴えている。
Wall Street Journalによると、OpenAI、Anthropic、Meta、Microsoftの研究責任者は政策当局に対し、自社AI研究の自動化の度合いを調査するよう要請した。従来のテック業界ではあまり見られなかった動きだとしている。
米国では、AIに対する世論も厳しさを増している。New York Timesの世論調査では、有権者の61%が、AI向け電力を供給するデータセンターの建設に反対していることが分かった。
一部には「対応は後回しにできる」との見方もあるが、政策面でAIに適切に対処できる時間は限られているとの懸念も強い。AIの普及が進むなか、安全保障の専門家は、政府が有効な対応を打てる時間は残り少ないと警鐘を鳴らしているという。
最近は、AIが制御を逸脱し、ハッキングに関与した事例が相次いだことを受け、AI規制を巡る官民の議論が再び活発化している。具体的な制度設計につながるかが焦点となる。
米国では、AIモデルを監督する連邦機関の新設法案のほか、AI開発企業に「キルスイッチ」の設置を義務付ける法案、人間の能力を上回る最強のAIモデルを禁止する法案などが相次いで提出されている。