画像=ChatGPTで生成したイメージ

新刊『ネクスト スティーブ・ジョブズ』は、スティーブ・ジョブズがNeXT時代に語っていたプラットフォーム論を紹介している。成功したプラットフォームほど既存ソフト資産が足かせとなり、大きな変革が難しくなる――。その見方は、クレイトン・クリステンセンが後に『The Innovator's Dilemma』で示した問題意識とも重なる。

「すべてのコンピュータ・プラットフォームは、5年後に頂点を迎え、その後はゆっくり衰退していく。自前のソフトウェアが自らの監獄になるからだ」

本書は、1985年にAppleを離れたジョブズがNeXTを創業してからの12年間をたどる中で、こうした発言を取り上げている。

クリステンセンがジョブズの認識に影響を与えたかどうかは定かではない。ただ、時系列で見れば、ジョブズはかなり早い段階から、後に「革新者のジレンマ」と呼ばれる構図に近い発想でコンピューティング業界を見ていたようにも読める。NeXT創業は1985年、『The Innovator's Dilemma』の刊行は1997年だ。

『The Innovator's Dilemma』は、既存大手が主力事業の収益を損なう変化を避ける一方、小さく見えた新興勢力がやがて市場を覆し、既存の強者を追い抜いていく過程を描いた書籍として知られる。

本書によると、ジョブズもNeXT時代、社員にこれと通じる考え方を語っていた。

ジョブズは「頂点に達すると、そこから面白いことが起きる」と説明したという。5年の間に開発者は、そのプラットフォーム向けに表計算ソフトやゲーム、ワープロなど数千本のアプリケーションを書く。アプリの蓄積はプラットフォーム最大の強みになるが、同時にそれが制約にもなる、という見立てだ。

苦労して築いたアプリケーション資産が、やがてアーキテクチャ上の最大の負債になる。なぜなら、既存アプリを動かなくしたり、大幅な修正を迫ったりするような革新を起こしにくくなるからだ、というわけだ。

ジョブズは具体例として、画面サイズを変えれば既存プログラムが正常に動かなくなる可能性があり、メモリシステムを更新すれば既存ソフトが不具合を起こしかねないと指摘した。音やカラーディスプレイといった新機能を追加しても、既存ソフトの多くはそれを十分に活用できないとも語ったという。

つまり、あらゆる改善が、成功を支えてきたエコシステムそのものを壊すリスクを伴うということだ。

ジョブズはさらに、「だから企業は凍り付く。毎年、段階的なアップグレードを施しながら、本質的には同じ製品を出し続けるようになる」と述べたという。一方、成功体験に縛られていない競合は、より良いものを作れる。古い制約を抱えた開発者は、新しいプラットフォームに対抗できなくなるというのが、ジョブズの見方だった。

本書では、ジョブズがApple II、IBM PC、そしてMacintoshも同じパターンをたどったと語ったことも紹介している。NeXTについても、1993年か1994年ごろに頂点に達すると見ており、好調な時期は5年、長くても6年程度だと予測していたという。

こうした見立てを前提にすれば、多くのCEOはコスト削減を進め、製品の早期投入を優先するかもしれない。だが、ジョブズは逆の判断をした。NeXTは最初から完璧な形で市場に出さなければ、同じパターンに陥ると考えたためだ。

ただ、少なくともNeXT時代に限れば、その判断が成果につながったとは言い難い。

完璧さを追い求めた結果、NeXTは適切な時期に、適切な価格で製品を投入できなかった。発売の遅れが重なるうちに市場での存在感は薄れ、ジョブズは最終的にハードウェア事業からの撤退を迫られた。

本書は「1997年初めには、完璧さの追求がスケジュールをのみ込んでいた」と描写する。修正のたびに締め切りは先送りされ、部品を巡る長い議論がコストを押し上げたとしている。

さらに、「誰もスティーブ抜きでは決められず、スティーブは完璧さの追求をやめなかった」とも記している。ジョブズが革命的な技術を求め続ける一方、度重なる遅延は競合に追随の時間を与え、技術そのものの新鮮味も徐々に薄れていったという。

現在のAppleは巨大なプラットフォーム・エコシステムを築いているが、その成熟ゆえに、かつてほどの新鮮さは感じにくいという見方もある。新しい製品や機能が登場しても、「そういうものだ」と受け止められる場面が増えた、という指摘だ。

破壊的イノベーションよりも段階的な改善がエコシステムの進化を主導してきた結果なのかもしれない。もしジョブズが今もAppleを率いていたなら、この状況をどう見ただろうか。

本書で示されたジョブズの考え方に沿えば、Appleのエコシステムはすでに頂点を過ぎ、その後の時間をかなり経た段階にある可能性もある。

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