DeepSeekが、IPOを視野に初の最高財務責任者(CFO)の招聘を進めている。外部資金の調達と上場準備を本格化する動きの一環で、上海市場の科創板上場に向けた手続きも年内に始まる可能性がある。低価格かつ高性能なAIモデルで存在感を高める一方、半導体や計算インフラ、人材確保に必要な資金の積み増しを急いでいる。
14日付のCryptopolitanによると、DeepSeekはHillhouse Investment傘下のGL Venturesでパートナーを務めるイエン・ウェンタオ氏を、初代CFOとして起用する方向で検討している。就任すれば、投資家対応と財務戦略全般を担う見通しだ。
今回の人事は、同社が資本政策を大きく転換する局面と重なる。DeepSeekは2023年の設立以来、一般的なスタートアップの資金調達ルートとは一線を画し、創業者がクオンツ系ヘッジファンドHigh-Flyerの資金をもとに運営してきた。今年に入り、外部資本の受け入れに踏み切ったとされる。
IPOを急ぐ背景には、事業拡大に伴う資金需要の増大がある。DeepSeekは低価格モデルを武器にシェアを広げてきたが、半導体の確保や計算インフラの拡充、主要人材の採用には巨額の資金が必要となる。IPOは成長資金の確保に加え、米競合に対抗するうえでも重要な選択肢となる。
上場準備はすでに動き始めている。報道によれば、DeepSeekはCitic Securitiesを含む主幹事証券を選定しており、年内に上場手続きに入る見込みだ。上場先としては、上海証券取引所の科創板を目指しているという。上場前の資金調達も並行して進めており、目標とする企業価値は約5000億元としている。
現在進行中の資金調達ラウンドでは、500億元の調達を見込む。6月には74億ドル規模の投資を獲得し、タームシート締結時点の企業価値は約4500億元と評価されたが、最終的なバリュエーションは3500億元に調整された。TencentとCATLのほか、複数の民間投資家が参加した一方、Hillhouse自体は投資家リストに含まれていない。
制度面でも追い風がある。上海証券取引所は6月、大規模モデル企業に適用する「第5の上場基準」に関するガイドラインを公表した。上場を目指す企業に対し、すでに運用され、広く利用されているモデルを実証するよう求める内容だ。取引所は同分野について、膨大な計算資源と高度な専門人材への投資が不可欠である点も認めている。
DeepSeekの上場が注目されるのは、単なる資本市場の話題にとどまらないためだ。同社の競争力の中核は価格にある。Juniper Researchは、中国のAIモデルの運用コストが、米国の主要な代替候補と比べて最大90%低くなる可能性があるとの見方を示した。欧米の大規模データセンターへの依存コストを抑えたい企業にとって、無視できない選択肢になりつつある。
その象徴例として挙げられているのが「DeepSeek-V4.1-Flash」だ。キャッシュ入力時の料金は0.003ドル程度で、GPT-5.6 Solの0.40ドル、AnthropicのClaude Opus 5の0.50ドルを大きく下回る。低価格モデルは最先端モデルに追いつきにくいとの見方が根強かったが、性能差は急速に縮小している。スタンフォード大学の「2026 AI Index」によると、2026年3月時点で米国の最高性能モデルが中国の最高モデルを上回る差は2.7%にとどまった。2025年初め以降、複数の評価で両国モデルの順位が入れ替わった点にも言及している。
企業の導入判断も、性能最優先からコスト重視へと軸足を移しつつある。AirbnbとSiemensは中国技術の導入を検討しており、Thomson Reutersは文書レビュー業務でClaudeに代えてAlibabaのQwenを採用した。最も複雑な業務ではなお米国勢が優位との見方がある一方、代替モデルの採用拡大は加速している。
こうした流れを踏まえると、DeepSeekのIPOは中国国内の単なる上場案件を超え、AIの収益性競争を占う試金石となる可能性がある。低コストを武器とする同社が上場資金まで確保すれば、モデル価格とインフラ投資を巡る競争は一段と激しくなりそうだ。市場の焦点は、調達資金を半導体、計算インフラ、人材確保にどこまで迅速に振り向けられるか、そして上海での上場手続きが年内に実際に始まるかに移っている。