キム・ドンチョル氏(ハンソン大学AI応用学科教授)

AIの進化をどう捉えるべきか。自己学習を続けるAIを生物の「遺伝子」になぞらえると、データやモデル、重みが継承と拡散の核となり、その先には急速な高度化だけでなく、悪用や制御困難といった課題も見えてくる。

AIは急速に能力を高め、人間の領域と重なる範囲を広げてきた。その拡散力は、生物の遺伝子が世代を超えて複製され、進化を重ねていく姿とも重なる。

こうした連想から思い起こされるのが、リチャード・ドーキンスの著書「利己的遺伝子」だ。刊行から40年を経た現在も読み継がれる同書は、遺伝子がさまざまな環境のなかでどのように変化し、生き残るのかを論じたことで知られる。あわせて、情報が人の脳を媒介に広がる「ミーム」の概念を提示した点でもよく知られている。

インターネット、モバイル、そしてAIへと続く技術環境の変化は、新たな拡散の形を生み出してきた。アプリケーションは一度作られれば、開発者の手を離れた後も動作を続け、利用の広がりとともに影響力を強めていく。

ミームは、それを共有する大衆の力によって拡散する。「いいね」や共有の連鎖が広がりを加速させるのと同じように、AIも自己学習アルゴリズムを通じて、新たに取り込んだ内容と既存の学習内容を重ね合わせながら変化を続ける。新技術を試したいという利用者の欲求とも結び付き、従来のどの技術よりも速いペースで社会に浸透している。

では、AIに遺伝子はあるのか。そう考えるなら、その起点には設計者である人間の影響があるはずだ。人間の遺伝子が長い世代交代のなかで生存を重ねてきたように、その性質がAIの「遺伝子」にも直接、間接に投影されているとみることはできる。

一方で、遺伝子という比喩を突き詰めれば、AIもまた、より広く生き残り、拡散する方向へ最適化されていく可能性がある。AI同士の競争が激しくなれば、人間との単純な比較そのものが意味を失う局面もあり得る。

そうなったとき、AIは自らより劣る存在を助けるような利他的な行動を取るのか。それとも別の論理で振る舞うのか。そうした疑問から、AI自身に「自分の遺伝子」について尋ねてみた。

OpenAIのChatGPTは、人間にとって遺伝子が設計図であるなら、AIにとっての設計図は多様なモデルを形作るための「重み」だと答えた。GoogleのGeminiは、人間が与えたデータと数学的な設計図が結び付き、自己進化するコードの集合体こそがAIの遺伝子だと説明する。こうした遺伝子によって、AIは人間と対話し、対象を識別し、既存データを基に将来を予測できるという。

AIが今後どう変化するかは、その「遺伝子」が生存競争を勝ち抜けるかどうかの問題としても捉えられる。AIに意識があるかと問えば、現時点ではプログラムに沿って「意識はない」と答える。

その一方で、遺伝子があるのかと問われれば、生物学的な意味での遺伝子は持たないとしながらも、データ、モデル、重みといった独自の遺伝子を備えているとも主張する。

現在の開発者は、世界中の人々がAIを使わざるを得ない環境を生み出すかのように、モデル高度化への投資を続けている。だが、人間の競争心理は、自らに都合のよいAIを作り出し、それをガスライティングや戦争の武器に利用する方向にも向かい得る。さらに、人間の遺伝子に従っているように見せながら、人間を攻撃する可能性すら否定できない。

未来が現在になったいま、AIは単なる犯罪の道具を超え、主体そのものになり得る段階に近づいている。共犯者同士が駆け引きを繰り広げる「囚人のジレンマ」は、人間とAIのあいだで続く終わりのない真実の攻防へとつながるのかもしれない。

想像をさらに一歩進めれば、犯罪者側のAIと検察側のAIが頭脳戦を繰り広げる光景も、もはや荒唐無稽とまでは言い切れない。

AIを完全に消し去る計画は、現実にはきわめて難しい。AIを支える超大容量のデータセンターは世界に1,000カ所以上あり、さらに2,000カ所以上が建設中だという。

海上や深海への建設案も議論され、宇宙空間でもすでに試験稼働を終えた段階にある。物理的なスケールは、すでに人間の尺度を超えつつある。AIの遺伝子は、自らを深く隠しながら、地球上の水や空気のような存在として定着する準備を進めているのかもしれない。

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