AIの活用拡大で、バイオ医薬品の設計から検証までの開発プロセスが変わりつつある。画像=Reve AI

AstraZenecaは、バイオ医薬品の創薬プロセス全体でAI活用を拡大している。分子設計から検証、分析、臨床候補の選定までをAIで高度化し、自社のマルチモーダルデータやロボット自動化研究基盤を生かして、de novo設計による新薬開発の加速を目指す。

米MIT Technology Reviewが23日(現地時間)に報じた。AstraZenecaでR&D部門の上級副社長を務め、バイオ医薬品エンジニアリングと腫瘍学の標的探索を統括するプジャ・サプラ氏は、設計、製造、検証、分析に至る各工程が計算技術によって強化され、開発サイクルの短縮と生産性、イノベーションの向上につながっていると説明した。

バイオ医薬品は、合成化学を基盤とする低分子医薬品に比べて設計がはるかに複雑だ。標的への結合性に加え、体内での安定性や量産のしやすさも満たす必要がある。候補となる組み合わせは膨大だが、実際に患者に届く化合物はごく一部にとどまる。

こうした中、AstraZenecaは「Build-Measure-Learn」の循環モデルを活用している。AIが成功確率の高い分子を予測し、候補の優先順位付けを行うことで、研究者は有望な分子に実験リソースを集中できる。サプラ氏は、この仕組みによって試行錯誤を減らし、開発の反復速度を高めることで、従来は創薬が難しかった標的にもアプローチしやすくなるとした。

AIの役割は、開発期間の短縮にとどまらない。新薬設計そのもののあり方も変えつつある。次世代のバイオ医薬品は、単一の疾患経路を狙うのではなく、複数の標的を同時に狙ったり、特定の細胞に治療物質を精密に送達したりする方向に進んでいる。サプラ氏は、複数標的の優先順位付けや、有効性、安全性、製造可能性の最適なバランスを見極める上でAIが重要な役割を果たすと指摘した。

AI創薬の競争力を左右する中核はデータだ。McKinseyは、生成AIと他の計算ツールを組み合わせることで、創薬期間を最大50%短縮できると試算している。一方で、AIの性能は学習データの量と質に大きく左右される。サプラ氏は、AstraZenecaの強みは自社で構築してきたマルチモーダルデータセットにあると説明した。

このデータセットには、分子構造、結合に関する測定値、安全性プロファイル、生産結果などが含まれる。さまざまな疾患領域や薬剤タイプをカバーするよう整備しており、同社はこれを基に最新のAIモデルを微調整し、継続的に検証するため、精密スクリーニング技術にも投資しているという。

AstraZenecaは、米マサチューセッツ州ケンブリッジのケンドルスクエアで、AIとロボット自動化を組み合わせた研究基盤も構築している。AIが実験を予測し、ロボットが実行し、機器がデータを生成し、そのデータを再びAI学習に戻す閉ループ型の仕組みだ。サプラ氏は、将来的には自動化されたハイスループットシステムによって、毎週数千件規模の分子相互作用を生成・評価できるようになるとの見通しを示した。

もっとも、自律化が進んでも科学者の役割は引き続き重要だという。サプラ氏は、AIの出力が説明可能で信頼でき、患者に実際の便益をもたらすものかどうかを見極めるには、人による監督、判断、戦略立案が欠かせないと強調した。

最終的な目標は「de novo設計」にある。AIが望ましい薬剤特性に合わせて、まったく新しいタンパク質配列を設計し、構造、安全性、体内での作用、製造可能性までを一体で最適化する構想だ。サプラ氏は、設計から臨床候補の選定まで全工程をAIが担う「完全なAI生成バイオ医薬品」の実現に向け、業界全体が前進していると述べた。

その実現には、より豊富で標準化された学習データに加え、AIが設計した候補物質を評価する堅牢なベンチマーク、機械学習と生物学の双方に通じた人材が必要になる。中でも、コンピュータが生成した分子が実際の人体で安全かどうかを予測することが最大の課題だとした。

AstraZenecaは対応策として、高度な細胞システムや超小型の臓器モデルを活用した、事実上の仮想臨床試験アプローチを導入している。そこで得られたデータをAIの学習に生かし、AIが設計した候補と実際の臨床段階とのギャップを縮める狙いだ。

サプラ氏は今後、分子候補を生成すると同時に、有効性や安全性まで予測するエージェント型AIシステムの活用が広がるとみている。その一方で、システムの自律性が高まるほど、人による監督の重要性はむしろ増すと指摘し、科学者はAIと協働しながら結果を検証し、統合していく役割を担うと述べた。

また、AstraZenecaのエンジニアリングチームは、AIを単なるブラックボックスではなく、「思考のパートナー」として機能させるシステムの開発を進めているという。マルチモーダルデータの統合、閉ループ最適化、不確実性の定量化、臨床判断段階での解釈可能性といった課題に取り組んでおり、AI技術と科学的専門性の融合が次世代バイオ医薬品開発の中核になると強調した。

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