Anthropicの共同創業者トム・ブラウン氏が、同社の最新AIモデルを巡る米政府との協議で前面に立ち、輸出規制の緩和に関与したと報じられた。研究開発や計算資源の確保を担ってきた同氏が、対外折衝でも存在感を強めている格好だ。
Business Insiderが7月1日付で報じたところによると、ブラウン氏は米商務省と交渉し、Anthropicの主力モデル「Fable 5」「Mythos 5」に関する輸出規制の緩和に関与した。
今回の動きは、ブラウン氏の役割が社内の研究・インフラ領域にとどまらず、政府対応にまで広がっていることを示している。ダリオ・アモデイ最高経営責任者(CEO)が前面に出なかったなか、これまで対外的な露出が比較的少なかった共同創業者が交渉窓口を担ったためだ。
交渉にはAnthropicの公共政策責任者サラ・ヘック氏も同席した。ただ、Wiredによると、ハワード・ラトニック商務長官による輸出管理関連の書簡は、ブラウン氏宛てに直接送られたという。
ブラウン氏はAnthropicで計算資源全般を統括し、AIモデルの学習と運用に必要な半導体やインフラの確保を担う。AnthropicはAmazonのTrainium、NVIDIAのGPU、GoogleのTPUを併用し、用途に応じて処理を振り分けている。
今春には、Claude Codeの需要急増を受けて計算資源の逼迫が強まるなか、SpaceXの大規模データセンター「Colossus」でモデルを運用する数十億ドル規模の契約も発表した。
ブラウン氏の経歴は、シリコンバレーのスタートアップとAI研究の双方を行き来してきた歩みとして整理できる。マサチューセッツ工科大学(MIT)卒業後、言語教育スタートアップやモバイル広告企業を経て、2012年にはデーティングスタートアップ「Grouper」を共同創業した。
当時の同僚だったマイケル・ワックスマン氏は、ブラウン氏について「親切で誠実、率直なリーダーだ」と評価したという。異なる職種の間をつなぐ力にも長けていたとされる。
Grouperを離れた後、ブラウン氏はAI分野に本格的に軸足を移した。昨年配信されたY Combinatorのポッドキャストでは、当時はAI研究にすぐ飛び込めるだけの力がなかったため、オンライン講義やKaggleのプロジェクト、線形代数の教材を使って数カ月にわたり独学したと語っている。
Y CombinatorのクレジットでGPUを購入し、学習に充てたことも明かした。
その後、ブラウン氏はOpenAIの初期メンバーとして加わった。OpenAI設立直後にグレッグ・ブロックマン氏へ連絡し、「どんな形でも手伝いたい」「必要なら床掃除でもやる」と伝えた逸話を、自ら紹介したこともあるという。
参加当初の9カ月間は機械学習以外のエンジニアリング業務を担ったが、その後はAI研究の中核人材として存在感を高めた。
2017年には、人間のフィードバックに基づく強化学習の基盤を築いた論文に参加。2020年には、大規模言語モデルのスケーリング則を示した研究や、GPT-3を紹介した論文の主要著者として名を連ねた。
このうちGPT-3に関する論文は、大量データで事前学習した大規模言語モデル(LLM)が、追加のファインチューニングなしでも少数の例示だけで新たな課題に対応できることを示したものだ。ブラウン氏は特にエンジニアリング面を主導したとされる。
Google Scholarでの被引用数は14万件を超える。
ブラウン氏はAIの進化速度についても見解を公にしてきた。2024年の共同創業者対談では、自身も当初はAIがそれほど急速に社会を変えるとは見ていなかったが、時間とともに考えが変わったと述べた。
「自分も最初は、そこまで速く進むとは思っていなかった」「時間がたつにつれて考えが変わった。だからそうした見方には共感できる」と語ったという。
Anthropicにとって、今回の交渉結果の意味は小さくない。同社は新規株式公開(IPO)を検討しており、上場が実現すれば、従業員の流動性確保や成長資金の調達につながる可能性がある。
そうした局面で、ブラウン氏がアモデイCEOに代わって機微の大きい交渉を担ったことは、経営体制の厚みを示す材料とも受け止められる。
AI企業の競争では、研究成果だけで優位に立つことは難しい。最先端モデルの開発には、半導体の確保、インフラ契約、規制対応を並行して進める必要があり、ブラウン氏はその接点を担う人物として位置付けられる。
技術開発に携わりながら政府と交渉し、複数の半導体・クラウド事業者との調整も担う構図だ。Anthropicが上場と事業拡大を進めるなかで、同氏の役割はさらに重みを増しそうだ。