Qualcommが、データセンター向けAI半導体市場への再攻勢を強めている。高帯域幅メモリ(HBM)とは異なる新たなメモリ構造を打ち出し、AI推論分野で差別化を図る。
TechRadarが7月1日(現地時間)に報じたところによると、Qualcommは次世代メモリ構造「HBC(High Bandwidth Compute)」を発表した。あわせて、HBCを採用したAI推論アクセラレータ「AI250」を2027年半ばに投入する計画も明らかにした。
中核となるのは、メモリを演算チップの直上に垂直積層する「Near-Memory Compute」構造だ。メモリとプロセッサを分離する従来方式ではなく、LPDDRメモリを演算ダイ上に直接積層することでデータ移動距離を縮め、帯域幅と電力効率の両立を狙う。Qualcommは、最大133TB/sのメモリ帯域を実現できるとしている。
同社はHBCについて、HBMが主流のAI半導体市場に対する新たな選択肢になり得ると強調する。第1世代HBCは最大768GBのメモリ容量をサポートし、大規模AI推論ではHBM比でワット当たりのメモリ帯域が最大6倍に高まると主張。コード生成AIのように小規模モデルと大規模モデルが混在する推論環境では、エネルギー効率が最大200倍改善する可能性があるとし、いわゆる「HBM Tax」を解消する技術だと位置付けた。
もっとも、こうした比較については単純な横並び評価は難しいとの見方もある。HBM4はメモリ単体の純粋な帯域を基準にする一方、Qualcommの数値は演算とメモリを一体化した構造全体の効果を反映したものとされるためだ。業界では、両者を同一条件で直接比較するのは適切ではないとの指摘も出ている。
Qualcommが特に前面に出すのは電力効率だ。生成AIの普及に伴い、データセンターでは電力消費の増加に加え、電源設備や冷却コストの負担が重くなっている。同社はスマートフォン向けチップで培った低消費電力設計の知見をデータセンター向けAI半導体にも展開し、競争力につなげる考えだ。
パートナー戦略も強化する。Qualcommは主要協業先としてMetaとMicrosoftを挙げた。MetaとはQualcomm製プロセッサを活用する複数年のAI協力契約を締結。Microsoftとも、データセンター、PC、ローカルAI環境にわたって協業を拡大しているという。
Microsoftのサティア・ナデラCEOは、AIインフラ拡大に伴って電力消費や水使用量の抑制が重要課題になるとの認識を示してきた。Qualcommの省電力重視の設計戦略は、単なる性能競争にとどまらず、主要顧客の運用コスト圧縮にもつながる可能性がある。
AI推論向けメモリ技術を巡る競争も激しさを増しそうだ。Samsung Electronics、SK hynix、Sandiskなどが進める「HBF(High Bandwidth Flash)」も、次世代の推論向けメモリ技術として注目されている。読み出し比率の高い生成AIの推論環境では、従来のHBMに加え、複数のメモリ構造が競合する可能性が高まっている。
ただ、Qualcommが示した性能や効率の数値は、現時点で独立した外部検証を経たものではない。実製品の投入後に、どの水準まで性能と電力効率を実現できるかが、市場での競争力を左右することになりそうだ。
それでも、MetaとMicrosoftの協力を確保したことは、モバイル半導体で存在感を持つQualcommが、データセンター向けAI半導体でもプレゼンス拡大を狙っていることを示す。NVIDIAが主導するAI半導体市場で、新たな競争軸が生まれるかが注目される。