【上海】7月1日に開幕した「Electronica Shanghai 2026」では、車載AIと電動化の進展に伴い、半導体や電力・熱管理、接続部品の重要性が一段と増している実態が鮮明になった。車載AIでは演算性能の高さそのものより、限られた電力とスペースの中で安定して性能を引き出せるかが焦点となっている。
展示会場では、そうした変化を反映した製品訴求が目立った。Texas Instrumentsは10〜1200TOPSに対応する拡張型の車載SoCを、TE Connectivityは15GHz、56Gbps対応の車載コネクターを前面に打ち出した。各社の展示は、ソフトウェア機能の高度化を支える基盤として、チップやコネクターの性能が改めて問われていることを印象づけた。
この傾向は各ブースに共通していた。インテリジェント走行では、エンドツーエンドの大規模モデルの搭載が本格化しつつある。競争の軸は演算性能の絶対値から、限られた電力・実装面積の中で信号完全性と演算密度をどう維持するかというハードウェア設計へ移っている。
Texas Instrumentsが訴求した「TDA5」SoCは、10〜1200TOPSのレンジで性能と消費電力、安全性の両立を図った設計を特徴とする。「AWR2188」の4Dイメージングレーダーは、単一チップで8TX/8RX構成を実現する点を打ち出した。
SmartSenseは、車載イメージセンサー「SC860AT」(8.3MP、HDR 140dB)を展示した。厳しい照明条件でも安定した入力データ品質を確保する用途を訴求した。
電動車を巡る競争軸も、航続距離から充電速度へと移りつつある。そのしわ寄せは、電力部品と熱管理に集中している。電圧プラットフォームが800Vから1000V超へ高まるにつれ、充電の高速化に伴って電力半導体の発熱も増えるためだ。
ウィエンが展示した2000V整流器「WND60P20W」「WND90P20W」は、1000VDCのEV充電インフラにおける厳しい使用条件を想定した製品という。電圧スパイクや浮遊インダクタンスが部品寿命に及ぼすリスクの抑制を狙う。ウィエンは同製品について、世界上位3社クラスのEV充電モジュールメーカー向けORingダイオード用途として供給していると紹介した。
熱管理も、単なる放熱対策からエネルギーフローを精密に制御する領域へと広がっている。Novosenseは熱管理コントローラーのデモで、電動ウォーターポンプや冷却水バルブなど主要部品をチップ単位で制御し、CAN-FDを介してゾーンコントローラーに接続する構成を示した。
電力エレクトロニクスと熱管理は、もはや補助的な技術ではない。急速充電競争の成否を左右する中核領域になっていることを、会場の展示は示していた。
◆高電圧化と軽量化、コネクター設計に新たな課題
高電圧化は、コネクター設計にも新たな課題を突きつけている。会場のあるブースでは、高電流コネクターの軽量化を巡って実務担当者の議論が交わされた。銅をアルミニウムに置き換えれば軽量化は進むが、接続部の処理が不十分な場合、腐食によって接点が損傷する懸念があるという。
高電圧コネクターでは、軽量化と信頼性の両立が欠かせない。着脱方式も論点の1つだ。ボルト締結は固定力に優れる一方、取り外し時には先にボルトを緩める必要がある。高電圧インターロック(HVIL)方式は、安全性と利便性のバランスを別の形で取る手法として位置付けられる。
車載に限らず、データセンター分野でも電力供給経路そのものが課題として浮上していた。来場者の1人は、GPUに12V・60Aを基板端から供給する方式では、電流の増加に伴ってその区間のラインロスが大きくなると指摘した。これに対し、ブース担当者は解決策として垂直電力供給(vertical power delivery)経路を説明した。
電流が増えるほど、配電構造をどこに置くかが損失を左右する重要な変数になるというわけだ。
接続部品の存在感も高まっている。車両、道路、クラウドの統合が実証段階を超え、大規模な構築局面へ進むなか、車内データトラフィックは急増している。データを損失なく伝送する接続の信頼性が、そのままシステム性能を左右する時代に入りつつある。
TE Connectivityの「GEMnet」コネクターは、15GHzの帯域幅で最大56Gbpsをサポートし、車載イーサネットや超高精細ディスプレイ接続向けを想定する。Rosenbergerは、4mm²の銅線基準で85℃時に40Aの連続通電に対応する次世代高電圧コネクター「HVR 25」を展示し、800V超のシステムへの対応を打ち出した。
これまで補助部品とみなされがちだったコネクターは、次世代の車載インフラを支える基盤部品として位置付けを高めている。
会場で見えた潮流は明確だ。AI機能と電動化が同時に高度化するほど、それを支えるハードウェアの価値も高まる。演算、センシング、電力、熱管理、接続に至るまで、部品の完成度そのものがシステム性能の上限を決める構図が強まっている。
自動車がAI機能を搭載する段階から、AIを安定して支える段階へ移るなか、Electronica Shanghai 2026の展示はその転換点を映し出した。